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生産性向上

IT技術を活用したスリープテックも! 拡大する「睡眠市場」の背景と動向

IT技術を活用したスリープテックも! 拡大する「睡眠市場」の背景と動向

「睡眠市場」が拡大しています。日本人の平均睡眠時間は世界的にみて短く、日中に眠気を感じる人が多いことがわかっています。
それは、個人の健康や幸福はもとより、生産性にも関わる問題です。

こうした状況下、睡眠の質を高めるとうたう飲食料品の人気が高まり、品切れ状態が続く商品もあります。
また、IT技術を駆使した「スリープテック」と呼ばれるサービスも広がっています。
その概要を押さえ、動向を探ります。

日本人の睡眠状況

国内外の調査結果から日本人の睡眠状況をみていきましょう。

OECD Gender Data Portal("2021 Time use across the world")には、OECD加盟国のうち30か国の睡眠時間が載っています。そのうち日本人の睡眠時間は平均442時間(7時間22分)で最短です。一方、最長のアメリカ人は531分(8時間51分)ですから、その差は実に89分です(両国とも15-64歳)。※1

厚生労働省の調査からは、さらに深刻な様子が窺えます(図1)。

図1 1日の平均睡眠時間(20歳以上)

図1 1日の平均睡眠時間(20歳以上)

以下を参考に図を作成しています。
出所)厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」p.27 ※2

1日の平均睡眠時間が6時間未満の人の割合は、20歳以上の男性37.5%、女性40.6%で、男性の30~50歳代、女性の40~50歳代では4割を超えているのです。

睡眠不足の影響

こうした睡眠状況は日中の状態にも影響を与えています。

健康・ウェルビーイングに及ぼす影響

アメリカのシンクタンク、ランド研究所による調査レポートでは、睡眠不足は健康面や社会面でさまざまな悪影響を及ぼすことが指摘されています。※3

まず、睡眠不足は、死亡率の上昇につながります。
1日の平均睡眠時間が6時間から7時間の人は、7時間から9時間の人と比べて死亡リスクが4%、6時間未満の人は死亡リスクが10%高くなります。

上述の厚生労働省の調査で睡眠の質に関する質問をしたところ、男女ともに20~50歳代で最も多かった回答は、「日中、眠気を感じた」というものでした。※2

仕事に行くのが憂鬱だと感じる日が多い社員ほど、睡眠に関する問題を多く抱えているという調査結果もあります(図2)。

図2 直近1週間において仕事に行くのが憂鬱だと感じた日数と睡眠診断スコア

図2 直近1週間において仕事に行くのが憂鬱だと感じた日数と睡眠診断スコア

以下を参考に図を作成しています。
出所)BRAIN SLEEPXNTT東日本「睡眠偏差値BIS」 ※4

睡眠の質については、単に睡眠だけの問題ではなく、その裏に別の問題が隠れている場合もあると想定できますが、この調査を共同で行ったBRAIN SLEEPとNTT東日本は、睡眠の改善をサポートすれば、仕事に行くのが憂鬱だと感じることが減少し、離職防止やモチベーションアップにつながる可能性があると指摘しています。

生産性・経済に及ぼす影響

睡眠不足は健康や幸福だけでなく、生産性、経済にも悪影響を及ぼします。※3

経済的損失は経済規模が大きいアメリカが圧倒的に大きく、最大で年間4,110億ドル、次いで日本は最大で年間1,380億ドルと推計されています。

しかし、GDP比で考えると、日本の推定損失額は1.86〜2.92%で、アメリカ(1.56〜2.28%)、イギリス(1.36〜1.86%)、ドイツ(1.02〜1.56%)、カナダ(0.85〜1.56%)を上回り、調査対象国の中で最も割合が高くなっています。

睡眠は医療費にも影響を与えることがわかっています。
厚生労働省の「企業の「健康経営」ガイドブック(改訂第1版)」では、「睡眠休養」に関する問題を抱えている層は、問題がない層と比べて医療費の損失コストが有意に高いと報告されています(図3)。

図3 医療費と生活習慣指標との関係

図3 医療費と生活習慣指標との関係

以下を参考に図を作成しています。
出所)厚生労働省「企業の「健康経営」ガイドブック ~連携・協働による健康づくりのススメ~ (改訂第1版)」p.39 ※5

「睡眠市場」の拡大

前述の厚生労働省の調査結果によると、睡眠の妨げになっていることとして、30~40歳代男性では「仕事」、30歳代女性では「育児」と回答した人の割合が最も高くなっています。※2

このことから、適切な睡眠時間を確保するためには睡眠不足の原因そのものの解消が必要だということがわかりますが、同時に、寝つきをよくしたり、睡眠の質を高めたりすることも必要でしょう。

コロナ禍で生活様式に変化が生じたことで、睡眠に悩む消費者のニーズがより一層高まり、睡眠市場が拡大しています。※6

富士経済によると、グリシンやテアニン、GABA、乳酸菌などを成分に含み、睡眠の質の向上・改善などを謳った商品の市場規模は、2021年134億円、2022年は前年比104.5%の140億円に上ると推計され、今後も市場拡大が見込まれています。

そのような商品は、たとえば、乳酸菌「シロタ株」を多く含むことでストレスを低減し、睡眠の質を高めるという乳酸菌飲料や、睡眠効果を上げるとされる植物由来の色素成分が入ったフィルム、睡眠の質を高めるといわれるGABA入りのチョコレート、寝る前に飲んで疲労回復を図る栄養ドリンク等、飲食料品だけでも多岐にわたり、なかには売り切れが続いて入手困難な商品もあります。※7
他にも、アロマを活用して睡眠環境を改善しようとする柔軟剤も販売されています。

さらに、寝具や改善薬も含めると、日本における睡眠関連の既存市場は1.2兆円、潜在市場は3~5兆円とも試算されています。※8

スリープテックとは

健康経営の一環として、ITやAI技術を活用した睡眠サポート「スリープテック」を導入する企業が増えています。

スリープテックとは、「IT(情報技術)やAI(人工知能)等の技術を活用し、人の眠りを科学的に分析したり睡眠不足を改善したりするための製品・サービスのこと」です。※9
主な事業としては、睡眠改善・支援サービス、寝具、スマホアプリ、ウエアラブル機器、睡眠支援ガジェット等があります。

このようにスリープテックにはさまざまなものがありますが、本稿ではそのうち、企業を対象としたサービスにフォーカスします。

企業が提供しているサービス事例

NTTビジネスソリューソンズが提供しているのは、一人あたり月額528円(税込)から始められる健康経営®「ねむりの応援団」です。※10
サービスの特長は以下です。

  • LINEによる「ねむりの相談室」開設:従業員へ睡眠に関するお悩み相談窓口をLINEでご提供。お気軽にご相談いただけます。
  • 睡眠の理解が深まる「コンテンツ配信」:動画・コラム・クイズといったコンテンツを定期的にLINEで配信。睡眠に関する知識を楽しく取り入れられます。
  • 「分析レポート」で睡眠改善の効果を確認:従業員の睡眠改善施策を分析評価しレポートを提出。睡眠改善の効果測定をサポートします。

そもそも健康経営®とは?

経営的な視点から従業員等の健康を管理することです。
企業理念に基づいた従業員等への健康投資は、従業員の活力や生産性等の向上及び組織の活性化をもたらし、業績や株価の向上につながると期待されます。※11

企業が共同で取り組むためのハブ

睡眠に関する問題の解決に向けて、さまざまな企業が共同で取り組むためのハブもあります。※8

NTT東日本とNTT DXパートナーは、日本の睡眠課題解消に向けて、仮想コミュニティ "Sleep Network Hub 「ZAKONE」"を創設しました。
このハブは、さまざまな企業が共同で、睡眠改善のための新規事業創出やサービス開発、イベントを企画するためのもので、既に睡眠について取り組んでいる企業や、これから睡眠に関する事業・サービスを創出したい企業が参画しています。

このハブで行われているのは、睡眠課題のソリューションとなる新しいイノベーション創出を目的とした以下の活動です。

  • 参画企業間でのネットワーキング促進
  • 共創プロジェクト誘発のためのイベントやプログラムの開催
  • 参画企業に対する、睡眠プロダクト先行体験機会の提供や正しい睡眠医学に基づく知識の啓蒙

このコミュニティに参加している企業・組織は40に上り(2023年2月13日現在)、関心の高さが窺われます。※12

まとめ

よい睡眠は健康や幸福感を高め、それが企業の生産性向上やESG経営にもつながります。
まずは社員の健康と幸福のために、そしてよりよい経営のためにも、企業ぐるみの睡眠サポートに目を向けてみてはいかがでしょうか。


参考資料一覧(ページ数は、参考文献内の表記に準じています)

  1. ※1 OECD "OECD Gender Data Portal>Time use across the world"
  2. ※2 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」p.28
  3. ※3 Rand「Why sleep matters -- the economic costs of insufficient sleep」
  4. ※4 BRAIN SLEEPXNTT東日本「睡眠偏差値BIS」
  5. ※5 厚生労働省「企業の「健康経営」ガイドブック ~連携・協働による健康づくりのススメ~ (改訂第1版)」(2016年4月)p.39
  6. ※6 富士経済グループ「Press Release H・Bフーズの国内市場を総括」(2022年5月31日)p.2
  7. ※7 讀賣新聞オンライン「「ヤクルト1000」ずっと売り切れ、急拡大する「睡眠市場」...眠りに悩む人が増えている」(2022年6月18日)
  8. ※8 NTT東日本「(報道発表資料)日本の睡眠課題に対して、企業共創型プロジェクトによる解決を目指す仮想コミュニティ"Sleep Network Hub 「ZAKONE」"がグランドオープン」(2022年8月31日)
  9. ※9 NIKKEI COMPASS「スリープテック>スリープテックの用語の定義」
  10. ※10 「ねむりの応援団」は100名さまからのご利用となります。詳細はご相談ください。
    NTTビジネスソリューションズ「ねむりの応援団」
  11. ※11 経済産業省ウェブサイト
  12. ※12 ZAKONE ウェブサイト

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