ICTで経営課題の解決に役立つコラムを掲載
デジタルが切り拓く新しいサーキュラー・エコノミー 「デジタルツイン」の世界とは
モノを大量生産・大量廃棄する一方通行の経済活動から資源を再利用・循環させる「サーキュラー・エコノミー」への転換が迫られるなか、その一助としてデジタル技術やICTの利活用が進んでいます。
廃棄物ゼロをめざす社会や企業の中で、デジタル技術には何ができるのか。
具体的な導入事例や、「デジタルツイン」といった最新テクノロジーをご紹介します。
モノを「消費する」から「使い続ける」仕組みへ
資源をできる限り長期にわたって循環させながら利用するサーキュラー・エコノミーは、環境負荷を減らすだけでなく、企業にとっても利益をもたらすものです。
「サーキュラー・エコノミーデジタル時代の成長戦略」(日本経済新聞社)を刊行し、国内においてサーキュラー・エコノミーをいち早く紹介したアクセンチュアは、サーキュラー・エコノミーによって2030年には4.5兆の経済効果を生むと試算しています※1。
さらに、サーキュラー・エコノミーによるビジネスモデル転換の代表的事例として、タイヤメーカーのミシュランの事例を挙げています※2。
ミシュランでは運送会社向けに、従来のタイヤを売り切るビジネスから走行距離に応じてタイヤのリース料を請求するビジネスモデルを展開しています。
このサービスには、走行距離の算出やタイヤの状態検知を行うセンシング、IoT、データアナリティクスが駆使されています。
これによりタイヤを「使い捨て」するのではなく、摩耗具合に応じてメンテナンスを加え、使い続けることができるのです。
また使用済みの製品は100%回収し、リサイクルタイヤの材料にするというシステムが構築されています。
また、デジタル技術によってタイヤの摩耗具合を「見える化」し、スマートフォンアプリでユーザーに知らせるサービスも、2021年から日本国内で展開しています※3。
摩耗してきたタイヤは「リグルーブ(再び溝を掘ること)」、「リトレッド(ゴムの張り替え)」を施されることによって、使い捨てされることなく、さらに走行を続けられるようになるのです。
タイヤの廃棄を減らすだけでなく、ユーザーにとってもメンテナンスの時期や料金を把握できる利便性につながるサービスです。
サーキュラー・エコノミーを実現するテクノロジー
このように、デジタル技術はさまざまな形でサーキュラー・エコノミーに寄与していくことが予測されています。
アクセンチュアは、具体的に下のような技術を挙げています(図1)。
図1 サーキュラーエコノミーを実現する10のテクノロジー
以下を参考に図を作成しています。
出所)経済産業省ウェブサイト 第3回 産業構造審議会 新産業構造部会討議用資料 「デジタル競争時代における産業転換」(アクセンチュア株式会社) p5
原料の調達から商品の製造、販売、消費、資源の回収まで、サーキュラー・エコノミーの多くの段階でモバイル、クラウドコンピューティング、ビッグデータ・AI・アナリティクスなどのデジタル技術が役立つというわけです。
なかでも近年注目されているのが、クラウドコンピューティングを使った「デジタルツインコンピューティング」の技術です。
デジタルツインコンピューティングとは
デジタルツインの「ツイン」は双子のことです。
デジタルツインコンピューティングとは、モノやヒトの行動・変化をデータに基づいてデジタルで表現することによって、現実空間の双子を仮想空間上に構築・再現する技術です(図2)。
図2 デジタルツインの概念
ミシュランがタイヤにセンサーを装備することで摩耗の度合いを把握したり、各種走行データをタイヤの開発に活用しているように、ヒトの行動傾向や結果も、現代ではその多くがデータ化できるようになっています。
そこで、現実空間で起きていることをデータ化して仮想空間にリアルタイムで送り、仮想空間でデータを分析して今後どのようなことが起きるかをシミュレーションするというわけです。
その結果を現実空間にフィードバックすることで、先に起こりうるヒトの行動に最適なインフラの構築・運営をしようというのがデジタルツインの考え方です。
では、このデジタルツインコンピューターがサーキュラー・エコノミーにどのように役立つのでしょうか。
デジタルツインで生まれるサーキュラーエコノミーの世界観
デジタルツインとは、いわばヒトの行動をクラウド上に描き、そのシミュレーションに現実世界をマッチさせていくシステムといえます。
需要予測でロスを減らす
例えばゴディバジャパンは、AIで商品の需要を予測するシステムの拡大をはかっています※4。
具体的には過去の販売実績や天候等をかけあわせ、各店舗や倉庫に必要な商品を算出する仕組みです。
「需要予測」の考え方は、余剰生産による廃棄物を減らすことにもつながります。
自動車の寿命を「部品単位」で管理
また、規模は異なりますが、自動車業界ではこのような変化が起きています。
ドイツの自動車業界では、「Catena-X(カテナ-X)」というイニシアチブが誕生しています。
これは、企業をまたいで製品に関する各種データを共有することにより、サプライチェーンの効率化やCO2排出量削減等が可能になるものです。
ドイツのグローバルコンサルティング会社であるローランド・ベルガーは、これにより、まず、以下のような変化が起きると指摘しています※5。
- 部品「個体」ごとの使用履歴・修理履歴に基づいて部品単位で適切に価値・性能を評価することで、中古品の査定や材料回収が加速する
- その結果、車両や部品の寿命を最大化できる
- リアルタイムの品質管理により、リペアパーツを適切なタイミングで自動配送できる
- 事故車両等の際は内部の部品を取り出し、部品ごとのデータに基づけば部品そのものは寿命いっぱいまで使い切ることができるようになる
かつ、部品レベルで製造過程や材料、使用・修理履歴が可視化されることで、価値・性能評価の精度が向上し、部品レベルでの正確な中古査定やリサイクル材料の回収が実現できるとしています(図3)。
図3 catena-Xによるサーキュラーエコノミーの形
以下を参考に図を作成しています。
出所)「自動車のサーキュラーエコノミー~欧州Catena-Xは何をもたらすか~」ローランド・バッジャー・ジャパン p20
購入から一定期間が過ぎたとき、自動車そのものをまるごと廃棄するのではなく、部品単位での材料リサイクル、リユース、素材としての再生を経てサーキュラー・エコノミーに寄与しようというわけです。
確かに、部品ごとのデータがメーカーをまたいで共有されていれば、このような資源の循環は可能になるでしょう。
都市をまるごと再現するという試み
ここまではメーカーや業界単独の試みです。デジタルツインによって仮想空間に都市そのものを描き、あらゆることが予測可能になると、どうなるでしょうか。
私たちが生活していくための最低限の資源量を知ることができ、最適なリサイクル・資源の再生ができるようになる、というわけです。
これが、デジタルツインの最終目標です。
人の消費行動にはさまざまな要素が影響しています。
天候や交通網の状況によって人の消費行動も異なれば、同じモノであっても、リサイクル剤の含有比率によって寿命が異なります。
ただ、複雑に絡み合うこれらの事情をデータ化し、双子の世界をデジタル上に描き、将来予測をすることで、無駄をも予測することが可能になる、そして現実世界で無駄を防止できる、これがデジタルツインの世界です。
交通や建築における資源量の最適化等、人間活動前半における資源消費の予測にもつながるでしょう。
情報通信技術やビッグデータの持つ威力は、モノを生産する場面だけでなく、消費する場面でも最適化をもたらす可能性を秘めているのです。
参考資料一覧(ページ数は、参考文献内の表記に準じています)
- ※1 「『無駄』を『富』に変える5つの成長モデル」日経ESG
- ※2 「サーキュラー・エコノミー」アクセンチュア株式会社
- ※3 「ミシュラン、商用車用タイヤの点検作業をDX化した『MICHELIN Tire Care』を提供開始」ミシュラン
- ※4 「ゴディバジャパン、AIで品切れ・フードロス防止」日本経済新聞
- ※5 「自動車のサーキュラーエコノミー~欧州Catena-Xは何をもたらすか~」ローランド・バッジャー・ジャパン p17-18
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