ICTで経営課題の解決に役立つコラムを掲載
最先端技術と独自の発想で社会課題を解決する
「ソーシャルユニコーン」
~IoTの活用と大企業とのコラボによる成功事例とは~
2022年12月、政府は「スタートアップ育成5か年計画」を発表しました。
冒頭で、「スタートアップは、社会的課題を成長のエンジンに転換して、持続可能な経済社会を実現する、まさに「新しい資本主義」の考え方を体現するものである」と述べられています。※1
日本を代表する電機メーカーや自動車メーカーも、終戦直後に20代、30代の若者が創業したスタートアップでしたが、社会変革に貢献しつつ、日本経済をけん引するグローバル企業に成長しました。
本稿では、スタートアップをめぐる最新動向を押さえたうえで、IoTを活かして社会課題の解決に取り組むスタートアップ「ソーシャルユニコーン」の事例をご紹介します。
ソーシャルユニコーンとは
「スタートアップ育成5か年計画」以前から、政府はスタートアップ支援に舵をとっていました。
その一環として、ユニコーン(企業価値又は時価総額が10億ドル以上となる、未上場ベンチャー企業)、または上場ベンチャー企業を2023年までに20社創出する目標を掲げました。※2
ユニコーンを増やすことをめざす一方で、経済産業省は、企業規模とは別の意味合いで「ソーシャルユニコーン」という概念を打ち出しています。
それはどのようなものでしょうか。
社会課題の解決をめざすスタートアップ
スタートアップは、革新的な技術やビジネスモデルで成長を遂げていきます。
産業構造や人々の価値観が変化する現在、社会が直面する課題解決につながるビジネス、特にスタートアップならではの着想や機動力で社会変革の一翼を担う企業に対する期待は大きく膨らんでいます。※3
最先端の産業は政府の力だけで創出できるものではないだけに、政府は最先端の産業を活かしながら、既存の価値観や枠組みにとらわれずに社会課題を解決するスタートアップの活躍を期待し、支援しています。※4
経済産業省はそうしたスタートアップを、その資産総額より社会的な貢献に着目して「ソーシャルユニコーン」と呼んでいるのです。
J-Startup
国の成長戦略のひとつとして、経済産業省が2018年6月に始めた「J-Startup(Jスタートアップ)」は世界で通用するスタートアップを輩出するため、有望企業を選定し、集中支援するプログラムです。※3
図1 経済産業省によるJ-Startupの概念図
以下を参考に図を作成しています。
出所)経済産業省「J-Startup」(2018年)p.4
日本にはスタートアップが約1万社ありますが、J-Startupは2023年1月10日現在、188社選定されています。※5
同省はネット上のMETI Journalで、「ソーシャルユニコーン目指して 」という政策特集を組み、J-Startupに選定されたスタートアップの中からソーシャルユニコーンを数社取り上げています。※6
ソーシャルユニコーンが提供する技術やサービスはさまざまですが、そのうちIoTを使って社会課題の解決をめざす企業の取り組みをご紹介します。
IoTを活かしたソーシャルユニコーンの取り組み事例
ご紹介するのは、身近な持ち物に手軽に装着できるシールタイプの小型タグを開発したMAMORIO。
個人の使用に留まらず、さまざまな企業とのコラボによって、多様な社会問題の解決に貢献しています。
「なくすを、なくす」
企業理念は「なくすを、なくす」。※7
MAMORIOは世界最小クラスの紛失防止デバイスで、バッテリー消費の少ないBluetoothを利用しています。さまざまな物品につけておくだけで、物品の場所を特定し、持ち物が特定の場所を離れてしまわないようにお知らせがきて、置き忘れや忘れ物を検知・防止します(図2)。※8-1
図2 Bluetoothで紐づけされたMAMORIO
以下を参考に図を作成しています。
出所)MAMORIO Biz「法人向け紛失ソリューション MAMORIO Biz」
紛失した可能性があることを通知した後に、無事、持ち主に戻った割合は99.8%です。※7
CEO(最高経営責任者)の増木大己さんは、MAMORIOの前身である「落し物ドットコム」を2012年に設立。もともと証券会社でIPO(新規株式公開)関連業務に携わっていましたが、多くの人にとって切実な問題である落とし物、忘れ物を解決するサービスが存在しないところに商機を見出しました。
持ち主が一時的に「その場を離れた」のか、それとも「置き忘れ」か―MAMORIOはスマホに搭載されたセンサーの動きや電波の受信状況等さまざまな条件から判別します。
こうした、ユーザー目線に基づく機能やサービスはスタートアップならでは。市場環境が変化しようとも、あるいは変化するからこそ、こうした最先端技術は競争力の源泉であり続けるのです。
先端技術と大企業との協業がカギ
社会のニーズが多様化している現在、スタートアップならそうしたニーズにきめ細かく応えるビジネスが展開できます。こうした時代だからこそ、スタートアップが果たす役割は重要だと、経済産業省新規事業創造推進室長は述べています。※3
冒頭でふれた「スタートアップ育成5か年計画」では、旧来技術を用いる既存の大企業であっても、スタートアップをM&Aしたり、スタートアップとコラボレーションしたりして新技術を導入するオープンイノベーションを行えば、持続的に成長できることが分かってきたと述べられています。※1
また、スタートアップには大企業等による民間支援も必要です。※2
スタートアップと大企業との協業は互恵関係の構築につながります。
競争を勝ち抜くには健康経営が必須!センサーで眠りを解析「ねむりのあれこれ」
社会構造や人々の価値観が変化する中、企業が一致団結して課題解決に取り組むために必要といわれていることのひとつに「健康経営」があります。
ICTを活用して地域の社会課題の解決に取り組むNTT西日本と医療・介護ベッドおよびシート型睡眠センサー で国内トップシェアを誇るパラマウントベッドと 共同出資し、2021年7月に創業したNTT PARAVITA。経済産業省の研究結果によると、睡眠に問題がある場合と、そうでない場合の生産性損失コストの差は一人あたり年間約32万円ということがあきらかになり、 睡眠と生産性は密接な関係にあることがわかりました。※9 そこでNTT PARAVITAは、睡眠改善をサポートするためのICTを活用した「ねむりのあれこれ」のサービスを開始しました。
このサービスは、在籍する睡眠改善インストラクター、保健師、看護師、栄養管理士とセンサーにより取得した睡眠データ解析による睡眠改善 サービスです。従業員にマットレスや敷布団の下に設置するセンサーを配布し、約3か月間 データを収集します。その期間、睡眠改善のインストラクター(パーソナルトレーナー)が伴走し、オンラインアドバイスや睡眠に関する相談を受付。さらにアンケート調査や眠りに関するオンラインセミナー等を開催し、現状認識と知識醸成も行います。3か月後、センサーで収集した睡眠データの解析から、組織の睡眠 状況の可視化まで行います。パーソナルトレーナーによる伴走支援の結果、参加者の約7割に睡眠改善がみられる結果がでました。※10
詳しい実証結果の数値や睡眠改善事例はダウンロード資料をご覧ください。
https://www.nttbizsol.jp/service/sleep_healthmanagement/
このように、独自の発想で社会課題の解決に貢献するソーシャルユニコーンは、最先端技術の活用と大企業とのコラボがその成功要因の1つといっていいでしょう。さらに、独自のビジネスを生み出し、世界に挑戦することも可能になるはずです。
参考資料一覧(ページ数は、参考文献内の表記に準じています)
- ※1 厚生労働省「スタートアップ育成5か年計画」 p.1
- ※2 経済産業省「J-Startup」(2018年)p.3, p.4, p.6
- ※3 経済産業省 METI Journal「政策特集 ソーシャルユニコーン目指してvol.1 広がるJスタートアップの活躍 コロナによる社会変容で新たなニーズも【前編】」(2020/07/21)
- ※4 経済産業省 METI Journal「政策特集 ソーシャルユニコーン目指してvol.2 回り始めたエコシステム 成長の道筋の多様化も必要 古谷新規事業創造推進室長「同じ目線で」【後編】」(2020/07/22)
- ※5 経済産業省 J-Startup「Startups スタートアップ企業」
- ※6 経済産業省 METI Journal「政策特集 ソーシャルユニコーン目指して」
- ※7 経済産業省 METI Journal「政策特集 ソーシャルユニコーン目指して vol.5「なくすを、なくす」 紛失防止タグが応える新たなニーズ マモリオCOO泉水亮介さん」(2020/08/05)
- ※8-1 MAMORIO Biz「法人向け紛失ソリューション MAMORIO Biz」
- ※8-2 MAMORIO Biz「導入事例一覧」
- ※9 経済産業省 企業の「健康経営」ガイドブック P37
- ※10 ねむりのあれこれ ダウンロード資料
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