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環境・エネルギー対策

人の動きでエネルギーを「見える化」BEMSの凄さを導入事例で解説

人の動きでエネルギーを「見える化」BEMSの凄さを導入事例で解説

温室効果ガス排出量の削減が急がれる中、消費エネルギーの最適化は、あらゆる建築物にとって課題になっています。

そこで太陽光といった再生可能エネルギーを最大限に活用し、化石燃料の消費を最小限に抑えるため、IoTや電力データを活用して設備や機器を制御するシステムの開発が進んでいます。
そのうちのひとつが「BEMS(ベムス)」と呼ばれるシステムです。

BEMSとはどのようなものか、また、海外の事情についてもみていきましょう。

建築物エネルギー管理システムの種類

ビル内の電力使用状況を監視しデータとして「見える化」するシステムにはさまざまな種類があります。
おもにHEMS、MEMS、BEMS、FEMS、CEMSに分けられ、監視対象によって異なる名前がつけられています(図1)。

図1 建築物のエネルギー監視システムの種類

図1 建築物のエネルギー監視システムの種類

以下を参考に図を作成しています。
出所)「BEMS、FEMS、CEMSなどのエネルギー管理システムについて教えてください。」J-Net21(独立行政法人中小企業基盤整備機構)

住宅向け(HEMS)、マンション向け(MEMS)、商業ビル向け(BEMS)、工場向け(FEMS)があり、また、「CEMS」はこれらを含んだ地域全体(Cluster/Community)向けのシステムという位置付けです。

このうち、商業ビル向けのエネルギー管理システムであるBEMSについて、見ていきましょう。

BEMSのしくみ

BEMSのイメージや一例は次のようなものです(図2)。

図2 BEMSのイメージ

図2 BEMSのイメージ

以下を参考に図を作成しています。
出所)「民生部門のエネルギー消費動向と温暖化対策」環境省 p15

例えばフロア内にいる人の動きを把握しデータ化できれば、フロア内の人数に応じて空調を調節できます。
人の少ないときは、照明による電力消費を減らすこともできるでしょう。

オフィスでは、冷暖房が強すぎると感じたことがある人も多いのではないでしょうか。
電力を消費して不快な思いをするのはもったいないことです。
BEMSの導入で、利用者の快適性を保ったまま省エネを実現できるのです。

また、エレベーター等、他の施設も同様に、消費電力の最適化を図ることができるでしょう。

このように施設内にある多くの施設を一括管理し、電力の需要予測を立ててエネルギー運用し、適切な電力消費量になるようリアルタイムで機器を制御するのがBEMSです。

BEMS導入の効果

BEMSの導入により、下のような効果が生まれます(図3)。

図3 BEMS導入による電力消費量の変化イメージ

図3 BEMS導入による電力消費量の変化イメージ

以下を参考に図を作成しています。
出所)「BEMS導入のススメ-事業所の省エネ・省コスト化へのみち-」神奈川県

人が少ないのに照明がつけっぱなしになっている状況を回避したり、人がいないにもかかわらず照明・空調を必要以上に稼働している状況がデータによって分かるのです。
そうすると、何を削減すべきかが見えてきます。

実際、神奈川県内のシネマコンプレックスでは、BEMSによる空調の自動制御で電力使用量を大幅に減らしています(図4)。

図4 シネマコンプレックスでのBEMS導入事例

図4 シネマコンプレックスでのBEMS導入事例

以下を参考に図を作成しています。
出所)「BEMS導入のススメ-事業所の省エネ・省コスト化へのみち-」神奈川県

その結果、年間で電力使用量、電力料金をともに約28%減らすことに成功しました※1。

また、同県内の特別養護老人ホームでは、空調の設定温度を夏は1度低く、冬は1度高くし、運転時間を延長しています。
しかし、運転時間の延長にもかかわらず、空調の更新とBEMSによる消費電力管理で、結果的には契約電力を下げることができました(図5)。

導入前 導入後 増減率
契約電力 167kW 131kW △21.56%
電力使用量(1年間) 483,666kWh 488,198kWh +0.94%
電力料金(1年間) ¥18,019,000 ¥12,810,000 △28.90%
  1. ※基本料金の単価及び電力量料金の単価が導入前後1年間に変化がなかったと仮定して試算。実際の料金とは異なります。
図5 特別養護老人ホームでの事例

以下を参考に図を作成しています。
出所)「BEMS導入のススメ-事業所の省エネ・省コスト化へのみち-」神奈川県

利用者の快適性を保ったまま、省エネにも成功しているのです。

最大デマンド値の抑制による電力消費量を削減

オフィスビルや店舗が契約している高圧電力料金は、最大デマンド値(1年で最も多い30分あたりの電力量)が契約電力値として設定されます。電力消費量(電力料金)を削減するためには、この最大デマンド値のピークを抑制しなければなりません。この最大デマンド値を抑制し、毎月の電力消費量(電気料金)の削減をサポートするのがNTT西日本グループのテルウェル西日本が提供する「電力ピーク制御サービス」です。
電力ピーク制御サービスでは、設定した目標デマンド値を超えそうになると、デマンド制御機が自動で空調機の出力を制御。また、外気温や天候の状況により、過熱が想定される空調室外機等に対し、散水することで稼働効率の改善も促します。(図6)

図6 電力ピーク制御サービスの特徴

図6 電力ピーク制御サービスの特徴

以下を参考に図を作成しています。
出所)「電力ピーク制御サービス」NTT西日本グループ テルウェル西日本

社会情勢による物価高騰やSDGsへの取り組み等、企業経営はコスト削減と環境への配慮が求められています。NTT西日本グループではICTを活用した社会課題解決にむけ、さまざまなサービスの提供を進めています。その取り組みのひとつ、電力ピーク制御サービスは、クラウド技術が可能にした電力消費削減の形であり、かつ導入拠点における省エネルギー化を図るとともに、持続可能な社会へつながる取り組みといえます。

海外では厳しい規制

ビルの消費電力については、海外では厳しい規制が始まっています。ニューヨークの事例をご紹介します※2

ニューヨークの中心部では、エネルギー効率ごとにビルを「A」から「D」までランク付けし、かつ、そのランクをビルに貼り付けることで脱炭素の自主的な取り組みを促す制度が始まっています。

市として、CO2等の温室効果ガスの排出量を2050年までに80%削減する目標を掲げています。
それには市全体のCO2排出量の約7割を占めているビル群の脱炭素は欠かせません。
2025年からは決められたCO2の排出量の上限を超えた分に応じて、一定の規模のビルには罰金を課す方針です。

また、欧州の主要5か国では2030年までに建築物から排出される温室効果ガスを、2020年に比べて約15~30%削減する目標を掲げています(図7)。

図7 欧州主要5か国の温室効果ガス削減目標

図7 欧州主要5か国の温室効果ガス削減目標

以下を参考に図を作成しています。
出所)「脱炭素で先頭を走る欧州」自然エネルギー財団 p24

日本もこうした動きに乗り遅れることがないように、自主的な省エネを進めたいものです。

省エネはESG経営に関係するだけではありません。
エネルギー事情が不安定さを増す中、ビルの省エネはビルオーナーやテナント企業のレジリエンスを向上させることにも繋がるのです。
ぜひ、自社の経営体質強化のためにも、関心を持ってみてはいかがでしょうか。


参考資料一覧

  1. ※1 「BEMS導入のススメ-事業所の省エネ・省コスト化へのみち-」神奈川県
  2. ※2 「ニューヨーク ビルで加速する脱炭素」NHK

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