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ICTで経営課題の解決に役立つコラムを掲載

環境・エネルギー対策

「グリーンウォッシュ」を巡る厳しい視線 グリーンICTが大きな突破口になるか

ESG(Environment(環境)Social(社会)Governance(ガバナンス))経営の一環として、企業の環境対策が活発になっています。
また、ESG経営を進める企業に投資する「ESG投資」も盛んになってきました。

しかし一方で、企業がアピールする環境対策が「グリーンウォッシュ」として批判を浴びるケースも相次いでいます。
「グリーンウォッシュ」とは、見せかけの環境対策、あるいは自社の環境対策を実際以上に大袈裟にアピールしていることをさし、現在、厳しい目が向けられています。
海外では当局が捜査に乗り出すケースにも発展しています。

このような事態に陥らないために注目されているグリーンICTについてご紹介します。

ESG経営に向けられる注目と投資

ESG経営をする企業に対して投資をする「ESG投資」は、年々その規模を拡大しています。
日本国内のESG投資では環境対策に取り組む企業への「グリーン投資」の規模が最も大きく、中でも製造業、エネルギーが拡大しています。※1

また、世界規模でみると、ESG資産は2025年には53兆ドルに達する可能性があると見られており、これは世界全体の運用資産の3分の1にのぼるという試算もあります※2

その一方で、「見せかけの環境対策」が問題視されています。「グリーンウォッシュ」と呼ばれるものです。

「グリーンウォッシュ」とは

「グリーンウォッシュ」の概念が広がったのは1980年代のことです。

「グリーンウォッシュ(GreenWash)」とは、「グリーン」と「ホワイトウォッシュ(Whitewash=ごまかし、粉飾)」を掛け合わせた造語です。実際には、

  • 実態がないのに環境に配慮しているように見せかける
  • 実態以上に環境に配慮しているように見せかける
  • 不都合な事実を伝えず、良い情報のみを伝達している

といった行為をさします※3

例えば過去には、このような事例があります。

大手アパレルメーカーが「環境にやさしい持続可能なファッション」と銘打ったキャンペーンを実施したときのことです。

「オーガニックコットンやリサイクルポリエステルを使用している」というのがその趣旨でした。
しかし、実際にどの製品のどの生地にリサイクル素材を何パーセント使用しているのか、という具体的な根拠がありませんでした。また、ポリエステルTシャツは製造工程で約2万リットルと多量の水を使用することなども含めて、ノルウェー消費者庁は「グリーンウォッシュにあたる」と指摘したのです※4

グリーンウォッシュに捜査のメスも

また、刑事事件に発展する出来事も起きています。

2022年、ドイツの大手銀行と参加の資産運用会社に、検察と金融当局が家宅捜索に入りました※5
この資産運用会社が、ESGの取り組みを誇張した上でサステナブル投資の呼び込みに利用している疑いがかけられたのです。

また、アメリカでも2022年に、証券取引委員会が金融大手傘下の資産運用会社に150万ドルの制裁金を科したことを発表しています※6
運用会社側はすべての投資がESG評価を受けていると説明していましたが、実際にはESG評価を受けていない企業への投資があったと認定されました。
こちらも、ESGへの取り組みについて虚偽の説明をすることで投資資金を得ようとする動きだったとみられます。

サプライチェーンの課題

また、真の環境対策を進めるにあたって、サプライチェーンでのCO2排出量を把握するのが難しいという指摘も出ています。

現在、多くの企業が「ESG報告書」を公表しています。その中で、温室効果ガス排出量の報告の国際的な物差しとして「GHG(Green House Gas)プロトコル」というのがあります(図1)。

img_knowledge20230327_2_02.jpg

図1 GHGプロトコルの3つのスコープ

以下を参考に図を作成しています。
出所)「サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ」環境省・経済産業省

しかしオックスフォード大学の教授らは、自社の外、サプライチェーンで発生する温室効果ガス「Scope3」については把握が難しいため、正しく推定することは事実上不可能だと指摘しているのです※7

グリーンICTがもたらす省エネ社会

これらの課題を解決するために注目されているのが、「グリーンICT(グリーンIT/IoT)」です。ICTを利用してエネルギー利用状態を可視化したり、モノの生産の効率化、ヒトやモノの移動の削減等をはかるものです。

最も身近な事例として、コロナをきっかけにしたリモートワークが挙げられます。
実はリモートワークによって、家庭での消費電力は増えたものの、ヒトの移動が減ったことでCO2排出量を大幅に削減すると分析されているのです。

IEA(International Energy Agency=国際エネルギー機関)の試算は、世界中の自宅で仕事ができる人が週1日の在宅勤務をした場合、CO2は正味で年間約2400万トン削減されるとしています(図2)。

図2 在宅勤務によるCO2排出量の削減効果

以下を参考に図を作成しています。
出所)「脱炭素に向けたライフスタイルに関する基礎資料」環境省 p10

これは、ロンドンで1年間に排出されるCO2の量に匹敵しています。

そして、家庭や企業等、社会全体でICTを活用することで業務効率化や人・物の移動の削減を図る「Green by ICT」のCO2削減効果について総務省が試算しています。
ICTを利用した対策を講じることで、2020年には最大約1.5億トンのCO2が削減できる可能性があるという結果です(図3)。

図3 ICTによるCO2排出量削減の効果

以下を参考に図を作成しています。
出所)「2020年におけるICTによるCO2削減効果」総務省資料 p1

特に、BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)、ペーパーレス等、業務の電子化、オンライン取引による効果が大きくなっています※8

BEMSの詳しい内容についてはこちらの記事もあわせてご覧ください。

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BEMSの凄さを導入事例で解説

また、ICT機器そのものの省エネ化(Green of ICT)も進んでいます。

上の図を見ても、CO2の排出要因となるICT機器を選ぶ等の対策を取ることにより、ICT機器の使用によるCO2排出量が大きく削減される可能性が示唆されていることがわかります。

今後はAI技術の発展もあいまって、先に紹介したGHGにおける「Scope3」でのCO2排出量も推定できるようになっていくことでしょう。
「見せかけ」ではない真の環境対策を進めるために、デジタルの力に期待したいものです。


参考資料一覧(ページ数は、参考文献内の表記に準じています)

  1. ※1 「世界と日本のESG投資動向」三菱総合研究所
  2. ※2 「ESG資産、2025年には53兆ドルに達する可能性ー世界全体の運用資産の3分の1」ブルームバーグ
  3. ※3 「SDGs Communication Guide」電通 p12
  4. ※4 「『グリーンウォッシュ』の7つの罪と、それ以上の危機」フォーブス・ジャパン
  5. ※5 「環境先進国ドイツのドイツ銀行に『グリーンウォッシュ』疑惑」ニューズウィーク日本版
  6. ※6 「ESG投資の実態は "グリーンウォッシュ"にメス【経済コラム】」NHK
  7. ※7 「ハーバード・ビジネス・レビュー」2022年4月号 p16
  8. ※8 「2020年におけるICTによるCO2削減効果」総務省資料 p5

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