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生産性向上

生産性や業績向上につながるピープルアナリティクスとは

生産性や業績向上につながるピープルアナリティクスとは

人事のミスマッチによって離職者が発生してしまう、あるいは従業員がパフォーマンスを発揮できないといった状況は、どの企業も避けたいことでしょう。
人材が多様化し、必ずしも全員が同じ価値観を持つとは限らないのが現代の人事を取り巻く環境です。
そこで、客観的なデータに基づいて人事管理を実施する「ピープルアナリティクス」に注目が集まっています。どのようなものなのか、活用事例と合わせてみていきましょう。

ピープルアナリティクスが注目される理由

少子高齢化が続く日本では、将来的に働き手が不足するのは必至です。
1990年と2040年の人口ピラミッドを比較してみると、その様子がわかります(図1、2)。

図1 1990年の人口ピラミッド

図1 1990年の人口ピラミッド

以下を参考に図を作成しています。
出所)「令和2年度 厚生労働白書」厚生労働省 p6

図2 2040年の人口ピラミッド

図2 2040年の人口ピラミッド

以下を参考に図を作成しています。
出所)「令和2年度 厚生労働学所」厚生労働省 p7

労働人口が大幅に減少することが予測されています。
そのような環境にありながらも企業が生産性を維持しなければならないとなると、人材の有効利用をさらに進めなければなりません。
よって、高齢者や外国人等、さまざまな人材活用が必要になります。
そこで注目されているのが「ピープルアナリティクス」です。

ピープルアナリティクスとは

ピープルアナリティクスとは、「人の分析」です。
個人のスキルや志向性をデータ化し、また企業としてもどのような人材をどの部署が必要としているのかをAI等で分析し、人事管理を最適化する方法です。
例えば、ピープルアナリティクスの活用イメージは以下の通りです (図3)。

図3 ピープルアナリティクスの活用範囲拡大イメージ

図3 ピープルアナリティクスの活用範囲拡大イメージ

以下を参考に図を作成しています。
出所)「ピープルアナリティクスサーベイ2017調査結果」PwC p7

世界的コンサルティング企業であるPwCは2018年に公表したレポートの中で、現代のマネジメントは「勘と経験に基づく意思決定の限界」だと指摘しています※1

また「これまでの日本企業では、相手が自分と同じ価値観を持っている前提の下で、『勘と経験に基づくマネジメント』が行われるケースが比較的多かったと考えられる」とも分析しています。

先に述べたように、少子化が続く日本では高齢者、外国人といった多様な働き手、そして多様な働き方が求められます。また、従業員それぞれのエンゲージメントを向上させていかなければ、効率的な人事にはなりません。世代や生まれた文化・背景によって、考え方や価値観もさまざまです。
ピープルアナリティクスが注目されているのは、人事管理が複雑化しているのが背景にあるのです。

ピープルアナリティクスに対する企業の関心

PwCが日本企業189社を対象に実施した調査では、人材データの活用・分析について「取り組みを実施している/実施した」「今後取り組む予定がある」と回答した企業は2016年と比較して全体で10ポイント増えています(図4)。

図4 企業の人材データ活用の取り組み

図4 企業の人材データ活用の取り組み

以下を参考に図を作成しています。
出所)「ピープルアナリティクスサーベイ2021調査結果(速報版)」PwC

具体的に「3年後に活用していたい」という人材データの内容は以下のようなものです(図5)。

図5 人事管理で活用したいデータの種類

図5 人事管理で活用したいデータの種類

以下を参考に図を作成しています。
出所)「ピープルアナリティクスサーベイ2021調査結果(速報版)」PwC

スキル情報、評価情報、キャリアプラン情報などが上位にきています。
ピープルアナリティクスでは、これまでのスキルや実績と当該従業員の最適なキャリア分析をできるのも特徴といえるでしょう。
また、メンタルヘルスやストレスチェックでも関心が高いことがわかります。

ピープルアナリティクスの活用事例

ピープルアナリティクスは実際にはどのように活用されているのでしょうか。いくつか事例を紹介します。

退職予備軍の分析・未然防止も

先にも述べた通り、離職率を下げることは現代の人事管理の重要課題になっています。
従業員の早期離職は、企業にとって教育費などの育成コストが無駄になってしまい、経営に影響を与えかねません。
そこで、大手メーカーではこのようなシステムを構築しています(図6)。

図6 大手メーカーでの退職予備軍の分析・未然防止

図6 大手メーカーでの退職予備軍の分析・未然防止

以下を参考に図を作成しています。
出所)「未来型ピープル・アナリティクス(Future of People Analytics)」デロイトトーマツ

過去に「退職した人」「残った人」にはそれぞれどのような特性があるのか、逆にどのようなカテゴリに属する人が退職しやすくなっているのかを分析し、上長と本人のコミュニケーションに繋げるという仕組みです。

チャットツールから業績向上の秘訣を分析

また、ユニークな取り組みもあります。
都内で人材紹介・派遣を手がけている企業では、チャットツールを介した社内コミュニケーションの分析によってさまざまな知見を得ています※2

社内のチャットツールを統一し、部署やプロジェクト、特定のトピックごとに、チャットツール上に「チャンネル」を作成し、会話をオープンにしました。
コミュニケーションを「見える化」することで、チャットデータの内容(情報量、感謝の表現、スタンプの使用頻度、感情表現)を分析しています。
また、ネットワーク分析(誰と誰が会話しているかをデータ化し各従業員と他のリーダーやメンバーとの情報共有頻度を分析するもの)を合わせて実施した結果、以下のような事実が判明しました※3

  • リーダーからの情報共有はできるだけオープンにしたほうがいい=チームリーダーがオープンに情報を共有するチームでは、所属メンバー全員の業績が向上
  • チーム内外と定常的にやり取りするメンバーが多い方がいい=コミュニケーション量が増えると業績が向上する傾向があることが分かった
  • チームのみんなが発信できる環境が大切=特定のメンバーしか有益な情報発信をしないチームでは、メンバーの業績が低下していた
  • 受信数の多さが、業績向上につながる=チャットの受信数が多い人ほど、業績が高いという傾向が見られた

チャットという、個人の状況が見えやすいツールひとつとっても、さまざまな事実が浮かび上がってくるのです。

「なぜこの場所に人が集まるのか」を分析し、オフィス改革

また、大手文具メーカーでは、実験場所を設け、オフィス内に、従業員の詳細な行動データを収集・分析する仕組みを構築し、約1000人の従業員の行動データを収集・分析しました※4
そしてフロアごとに、どこに人が集まっているのかを観測・分析し、多くの人が集まる理由を画像データをもとに分析、人が集まる理由や家具・OA機器の利用状況を把握してオフィス改革につなげています。
普段意識することのない行動を観測することで、従業員にとってエンゲージメントが向上するオフィスづくりに活かそうというわけです。

活用事例の共通項は「見える化」

上記のピープルアナリティクス活用事例に共通しているのは「見える化」です。
チャットやオフィス内の移動等は、外から見て明確な目的がある場合と、そうでない場合があります。なんとなくあの人に声をかけたいな、という無意識の部分を可視化できるのがピープルアナリティクスの特徴でもあります。
離職率の問題も含め、これらは表立ったアンケートでは見えてこない従業員の本音を探ることにもつながります。

また、人事の意思決定に対する説明責任を果たすのにも役立ちます。「今回の異動には納得がいかない」といった気持ちは従業員のエンゲージメントを低下させてしまいます。
裏付けのある説明で従業員を納得させることは重要なのです。

かつ、高齢者や育児休暇復帰後の女性の働き方についても、どのような仕事をどのようにこなしてもらうか、どこまでの時間的・体力的負荷が最適なのかといったことをピープルアナリティクスによって可視化できれば、エンゲージメントや業績の向上にもつながるでしょう。

離職防止、生産性向上、働き手の減少。
日本の労働市場には多くの課題があります。
ピープルアナリティクスは、これらの課題を最新の技術によって解決し、強い組織を作るための一助になることでしょう。


参考資料一覧(ページ数は、参考文献内の表記に準じています)

  1. ※1 「ピープルアナリティクスサーベイ2017調査結果」PwC p6
  2. ※2 「チャットデータから業績向上の秘訣を分析―レバレジーズメディカルケア」日経BP
  3. ※3 「チャットデータから業績向上の秘訣を分析―レバレジーズメディカルケア」日経BP
  4. ※4 「従業員1000人の行動データを分析してオフィス改革―コクヨ」日経BP

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