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バーチャル株主総会とは?
特有のリスクに関するトラブル事例・安定的に運営するための対策

コロナ禍の状況が続く中で、株主総会をオンラインで開催する会社が増えています。オンライン上で開催される株主総会は「バーチャル株主総会」と呼ばれます。

バーチャル株主総会は、株主にとって利便性の高い開催形態である一方で、会社には慎重な対応が要求されます。特に、開催中にシステム障害が発生すると大きな影響が生じるため、システムの整備や予防線となる対策が必要不可欠です。

今回はバーチャル株主総会について、企業における開催状況やトラブル事例、安定的に運営するための対策等をまとめました。

バーチャル株主総会とは

バーチャル株主総会とは、オンラインで開催される株主総会です。株主の利便性向上や感染症対策等の観点から、上場企業・非上場企業を問わず、バーチャル株主総会を開催する企業が増えています。

バーチャル株主総会の種類

バーチャル株主総会には、開催形態に応じて以下の種類があります。

(1)ハイブリッド参加型バーチャル株主総会
実際の会場での開催と並行して、オンライン上で株主総会の傍聴を認める形態です。
オンライン参加の株主はあくまでもオブザーバーであり、オンライン上での議決権の行使等は認められません。

(2)ハイブリッド出席型バーチャル株主総会
実際の会場での開催と並行して、オンライン上で株主総会への出席を認める形態です。
オンライン参加の株主も、実際の会場で参加する株主と同様に、議決権の行使等をすることができます。

(3)バーチャルオンリー株主総会
実際の会場を設けずに、オンライン上のみで開催する形態です。一定の条件を満たす上場会社に限り認められています。

上場会社におけるバーチャル株主総会の開催状況

2021年3月期 2022年3月期
実出席のみ 86.0%(1,421社) 81.2%(1,386社)
ハイブリッド参加型 12.6%(208社) 17.4%(296社)
ハイブリッド出席型 1.1%(19社) 1.2%(21社)
バーチャルオンリー 0.3%(5社) 0.2%(3社)
図1 上場会社におけるバーチャル株主総会の開催状況

以下を参考に図を作成しています。
出所)東京証券取引所「2022年3月期決算会社の提示株主総会の動向について」p7
出所)東京証券取引所「2021年3月期決算会社の提示株主総会の動向について」p7

東京証券取引所の上場会社(3月期決算会社)の間では、2021年3月期と2022年3月期を比較すると、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会の開催率が明確に増加しています(12.6%→17.4%)。
しかし、実出席のみで株主総会を開催する上場会社は依然として81.2%にのぼり、バーチャル株主総会が主流とはいえない状況です。

また、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会(1.1%→1.2%)とバーチャルオンリー株主総会(0.3%→0.2%)の開催率は、未だ低水準で伸び悩んでいます。

バーチャル株主総会は普及の兆候を見せているとはいえ、未だ黎明期にあるというべきでしょう。

上場会社のバーチャル株主総会に関する課題意識

img_knowledge20230202_02.jpg

図2 ハイブリッド型バーチャル株主総会に関する課題認識

以下を参考に図を作成しています。
出所)日本取引所グループ金融商品取引法研究会「バーチャル株主総会について」p20

上記のグラフから読み取れるように、上場会社の間では、バーチャル株主総会特有のリスクについて多くの課題が認識されています。

特にシステム面に関する事項については、多くの上場会社から課題が提示されています。バーチャル株主総会の普及に当たっては、システム面のリスクをいかに解消・軽減するかがポイントになるでしょう。

バーチャル株主総会に関するトラブル事例

バーチャル株主総会を開催するに当たっては、以下のような特有のトラブルに注意しなければなりません。

  • システム障害によって議事に支障が生じる
  • システムに関する質問が当日に殺到する
  • インターネットの利用が困難な株主が参加できない
  • 議長による意図的な情報操作が行われる

想定されるトラブルを基に、バーチャル株主総会を開催する企業が負うリスクの例を紹介します。

システム障害によって議事に支障が生じる

<例1>
ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の開催中に、アクセス集中によってサーバーがダウンするシステム障害が発生した。
本来であれば、オンライン参加の株主にも議決権の行使や動議の提出が認められるはずだった。しかし、システム障害が長時間に及んだため、オンライン参加の株主は適切に株主権を行使できなかった。

株主総会の開催中に、サーバーダウンや回線遅延等のシステム障害が発生すると、オンライン上で参加する株主が議事を聴き取れない、議決権の行使等ができないといった事態が発生します。

この場合、株主からのクレームが多数寄せられる可能性が高いでしょう。さらに、権利を行使できなかった株主の数に鑑み、決議の結果に影響が生じ得る場合には、株主総会決議の取消事由に該当する可能性もあります。

システムに関する質問が当日に殺到する

<例2>
株主総会の開催当日に、オンライン参加の操作等について、株主から電話での質問が殺到した。予想を遥かに上回る質問をさばききれず、結果的にオンラインに参加できなかった株主が続出した。

バーチャル株主総会には不慣れな株主が多いため、操作方法等についての質問が当日に殺到する可能性があります。

質問をさばききれない場合は、株主からのクレームやレピュテーションの悪化に繋がりかねません。また、質問対応の不備によって多数の株主が議事に参加できなかった場合、株主総会決議の取消事由に該当する可能性もあるので要注意です。

インターネットの利用が困難な株主が参加できない

<例3>
バーチャルオンリー株主総会を開催したが、高齢である大株主の一人が自宅にインターネット回線を引いておらず、また、外出も困難な状況にあった。
結果的に、その大株主は株主総会に参加できず、残りの株主だけで株主総会決議が行われた。

バーチャル株主総会を開催するに当たっては、高齢者等を中心に、インターネットの利用が困難な株主への配慮も必要です。

特に、実際の会場を設けず開催するバーチャルオンリー株主総会の場合、インターネット環境がない株主は、参加できない可能性が高い点に留意しなければなりません。

議長による意図的な情報操作が行われる

<例4>
会社支配権の争いが生じ、支配権異動の可否を株主総会決議で決することになった。
ハイブリッド出席型バーチャル株主総会が開催されたが、その際、議長がオンライン参加の株主によるコメントを選別して、現経営陣に友好的なコメントのみを表示させ、敵対的なコメントは非表示とした。

オンライン参加の株主による行動は、他の出席株主が常に確認できるとは限りません。そのためバーチャル株主総会では、実際の会場のみで開催される場合に比べると、議長による意図的な情報操作のリスクが高いといえます。

たとえば議長によって、現経営陣を後押しするコメントだけを表示するような印象操作が行われた場合、株主総会決議の結果を左右しかねません。この場合、著しく不公正な方法による決議に該当し、株主総会決議が取り消される可能性があります。

バーチャル株主総会を安定的に運営するための対策

上記のトラブル事例等を踏まえて、バーチャル株主総会を安定的に運営するには、以下の対策を行うことが考えられます。

  • 招集通知にわかりやすい案内を添付する
  • リアル参加とは異なる点について注記する
  • 当日用のコールセンターを設置する
  • 議事に関するデータのログを確実に保存する
  • 「ハイブリッド参加型」とする

招集通知にわかりやすい案内を添付する

オンライン参加の要領がわからない株主からは、当日に質問が殺到することが想定されます。

このような株主を1人でも減らすために、ログイン方法や操作方法等についてわかりやすい案内資料を作成し、株主総会の招集通知に添付しましょう。

リアル参加とは異なる点について注記する

「ハイブリッド型」の場合、実際の会場での参加とオンライン参加では、システム上の都合から異なる取り扱いをせざるを得ない部分が出てきます。

オンライン参加の株主から不満が噴出することを防ぐため、招集通知に添付する案内資料において、リアル参加とオンライン参加の間で異なる点を注記しておきましょう。

当日用のコールセンター等を設置する

案内資料等を工夫しても、特に株主の多い企業の場合、オンライン参加の株主から当日にログイン方法や操作方法等に関する問い合わせ が多数寄せられることは避けられないでしょう。

株主からの問い合わせにきちんと対応するため、当日用のコールセンターやチャット受付等を設置し、複数の担当者が質問に対応できるような体制を整えましょう。

議事に関するデータのログを確実に保存する

バーチャル株主総会の議事に関しては、議長による恣意的な操作を指摘される等、公正性について疑問が呈される可能性があります。

株主総会決議の取消訴訟等に発展した場合に備えて、バーチャル株主総会の議事に関するデータのログは確実に保存しておきましょう。

「ハイブリッド参加型」とする

システム障害や不公正な議事進行による、株主総会決議取消しリスクは、オンライン参加の株主にも議決権行使等を認める「ハイブリッド出席型」または「バーチャルオンリー」の場合に顕著となります。

これに対して「ハイブリッド参加型」であれば、オンライン参加の株主はあくまでもオブザーバーのため、株主総会決議の取消し等のリスクを軽減できます。

過渡期的な対応になってしまいますが、バーチャル株主総会が黎明期にある現段階では、「ハイブリッド参加型」にとどめてリスクを軽減する方針も有力でしょう。

バーチャル株主総会の開催システムを選ぶ際のポイント

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バーチャル株主総会開催の支援システムは、各社からリリースされています。基本的にはその中から選定することになりますが、システム選定の際には、以下のポイントに注目して選ぶのがよいでしょう。

  • 回線速度、接続の安定性
  • オンライン参加株主の操作性
  • 開催形態に応じて必要な機能の搭載
  • セキュリティー機能

回線速度、接続の安定性

実際の会場における議事とタイムラグや、システム障害によるアクセス不能のリスクを減らすためにも、回線速度と接続の安定性は最低限の要素といえます。

導入前に実態を把握するのは難しい部分がありますが、サービス事業者に対する資料請求や、バーチャル株主総会の開催実績がある企業へのヒアリング等を通じて、できる限り高品質の回線・接続を提供しているサービスを見極めましょう。

オンライン参加株主の操作性

オンライン参加する株主が、シンプルな操作によってスムーズに株主総会へ参加できるかどうかも重要なポイントです。

導入前の段階で、実際に株主視点の操作画面をチェックさせてもらい、操作性に問題がないかどうかを確認しましょう。

開催形態に応じて必要な機能の搭載

オンライン参加の株主からの質問・コメント等を受け付ける場合は、その機能を備えたシステムを選定する必要があります。
また、「ハイブリッド出席型」や「バーチャルオンリー」の場合には、議決権行使や動議提出等、実際の会場と変わらない株主行動ができるような機能も必要です。

サービス事業者に対して、想定しているバーチャル株主総会の開催形態を伝え、自社のニーズを満たせるシステムかどうかを十分にヒアリングしましょう。

セキュリティー機能

バーチャル株主総会の開催中に、外部者がハッキング(クラッキング)をかけてくることも想定しておかなければなりません。

オンライン参加のシステムを選定する際には、ハッキングに対する予防機能や、万が一ハッキングがかけられた場合にも速やかにリカバリーできるような機能が備わっているかどうかにも注目しましょう。

バーチャル株主総会を円滑に運営するためには、必要な機能を備えた安定的なシステムを導入することが必要不可欠です。株主総会への開催・参加方法の多様化は、開催企業にとって株主重視の姿勢をアピールできる一つの手段として有効ですし、双方のコミュニケーションを図ることで企業価値向上に繋げられるチャンスも。運用面の安全性や操作性等をしっかり検討することが大切です。

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