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【イベントレポート】人材紹介事業とリスキリング事業の展開状況と展望
2018年の金融庁監督指針改正、2021年の銀行法改正による規制緩和を転機に、近年地域金融機関の多くが人材紹介事業に参入しています。本業の金融業に加え、人材面でも地場企業をはじめとした取引先の課題にアプローチしていくことで、より強く地域社会全体の持続可能な成長を支援できる戦略として注目を集めています。
2024年2月9日(金)に開催されたセミナー(会場:NTT西日本本社研修棟PRISM、オンライン配信)「人材紹介事業とリスキリング事業の展開状況と展望」では、株式会社ちゅうぎんヒューマンイノベーションズの管理本部兼新規事業開発本部部長として事業を推進する吉田茂氏をゲストに迎え、自社の取り組みに関する基調講演と他の地域金融機関の参加者を交えた意見交換会を実施しました。
本レポートでは、第1部の基調講演の内容をダイジェストでご紹介します。
【基調講演】人材紹介事業とリスキリング事業の展開状況と展望
第1部では、株式会社ちゅうぎんヒューマンイノベーションズ 管理本部兼新規事業開発本部で部長を務める吉田茂氏に「人材紹介事業とリスキリング事業の展開状況と展望」というテーマで、現在展開・検討している取り組みについてご講演いただきました。
吉田 茂 氏(株式会社ちゅうぎんヒューマンイノベーションズ 管理本部兼新規事業開発本部 部長)
立命館大学卒業後、1995年中国銀行に入行。
支店勤務と一般事業法人への出向後、事業承継、株式公開支援、M&A、組織再編のコンサルティング業務等に従事。
2018年より人材紹介業務の立ち上げと推進を担当し現在に至る。
https://www.chuginhi.co.jp/
銀行業から総合金融サービス業への進化
吉田)
ちゅうぎんグループでは、金融業に特化したサービス形態から、グループ全体でお客さまに寄り添ったソリューション提供をすることで、総合金融サービス業へ進化していこうとしています。
セミナー投影資料より
「ヒト・モノ・カネ」でセクションを分けた13のグループ会社がそれぞれの事業を担当し、グループ全体で地域に貢献できるソリューションを提供していく中で、「ヒト」の部分に関する課題に対して、高い次元でソリューションを提供していこうと一昨年に設立したのが、当社「ちゅうぎんヒューマンイノベーションズ」です。(人材紹介事業そのものは、2019年の8月から中国銀行ソリューション営業部で実施)
今後の拡大を狙う「出向コンサルティング」
吉田)
当社では、大きく分類して2種類のサービスを提供しています。
セミナー投影資料より
1点目は一般的な「有料職業紹介」です。
こちらでは、これまでの銀行業で培ってきた地域のお客さまとの関係性を活かし、行員を通して上がってきたニーズ(≒求人情報)に対して当社からさらなるヒアリングを行い、ニーズにマッチする人材を紹介する流れになっています。最近では、弊社独自の登録サイトやYou TubeをはじめとしたWebでの広告なども活用した求職者の流入の検証も実施しています。
自社で集めた求職者のデータベースを用いて、求人情報と求職者情報の両方を扱う「両手型」と呼ばれるビジネスモデルと、大手人材会社の求職者情報と連携して求人情報とマッチングを図る「片手型」と呼ばれるビジネスモデルの2つを構築していますが、当社では前者の「両手型」によるご成約が約8割を占めています。
2点目は、「出向コンサルティング」です。
あまり聞き馴染みのないサービス名かと思いますが、金融機関であれば確実に直面する「役職定年を控えた行員のセカンドキャリア支援」という課題に対するソリューションとして考案しました。また、当社が人材紹介事業を「銀行内の一新事業」ではなく、法人化して行うに至った理由の一つでもあります。
金融機関では一般的に55歳あたりの役職定年を迎える年齢になった方々が、別会社に出向されるケースが多いと思います。※
- ※ 役職定年を迎えた行員の出向先を選定する業務は銀行の人事部が担うが、行員・出向先企業間のマッチングは難易度が高く、出向後にミスマッチが発生するケースも見られる。
今回セミナーにお集まりの皆さんは金融機関の方々なので、同じケースを目にする、もしくはそれに関連した業務をご経験されているのではないでしょうか。
この部分をどうにか自行内の課題解決だけではなく、他の金融機関さんの出向をサポートすると同時に、マネタイズ可能な有料人材紹介事業の一環として展開ができないだろうかと考え、労働局と話し合い法人化に至った経緯があります。※
- ※ 岡山県の労働局の見解では、別会社を設立して行うならば「有料」での出向コンサルティング事業の展開が可能。これまでは銀行本体から無償で出向という形で運用。
現在は中国銀行を対象にこの「出向コンサルティング」を提供しているのですが、流れのイメージとしては、
①銀行からは「当行の行員が出向により活躍が望まれる企業(職業)を探してほしい」という依頼を受け付け、
②求人企業には、人手が不足している企業のポジション(例:経営幹部層)に対して、ご紹介できる人材がいれば、有料職業紹介事業と同じような形で手数料をいただきながら行員を紹介する(通常の有料職業紹介と併せて、「出向」を一つのバリエーションとしてご提供する)
という形をとっております。
今、55歳前後の方は、平成元年から3年あたりの入社で、バブルをはじめとした様々な要因もあり非常に行員の数が多い世代です。その方々が役職定年後にセカンドキャリアとしてお役に立てるような形がないだろうかというところで、当社のこの「出向コンサルティング」というサービスを他の地域金融機関の方々にも提供していく、もしくはノウハウをインストールしていくような形で展開していきたいと考えています。
両手型モデルを進める中で直面した課題
基調講演中の様子
吉田)
お客さまに対してサービスを提供し続けるために「収益」の追求は避けることができません。「両手型(自社で集めた求職者のデータベースを用いて、求人情報と求職者情報の両方を扱う人材紹介モデル)」のモデルを広げていくことや収益性を向上させていこうと考える中で様々な課題に直面してきました。
セミナー投影資料より
まずは、「自社サイトに登録してくれる求職者をどのようにして獲得・キープしていくのか」ということです。有効求人倍率が増加傾向にあり、「人手不足」と言われるような状況の中でも求職者を確保できる体制を作ることは最初に直面する課題です。
外部の求職者データベースを使用する「片手型」モデルに主軸を置けば人数を確保することは比較的容易になりますが、「収益性」という問題も同時に生まれます。
一般的に人材紹介事業では求人と就職者のマッチングが成約した場合、想定年収の約30%を手数料としていただく形となりますが、外部の求職者データベースを使用することで本来上がるはずであった利益幅が圧縮されてしまいます。そのため当社も独自のデータベースを構築する必要性を感じました。
しかし、データベースを独自で構築して求職者を集めることもまた容易ではありません。「餅は餅屋」と言われるように、優秀な求職者の多くが大手の人材紹介事業会社のサイトに登録していく中で、「ちゅうぎんヒューマンイノベーションズ」のサイトにも登録をしてもらうためには特別な差別化が求められます。2040年には約1,000万人が不足すると言われるぐらい労働人口が減少し、求職者そのものの絶対数が不足している中では、優秀な求職者を「確保する」だけではなく、「育てる」という視点からリスキリングまで提供できるような仕組みを作れないかと考えました。
また、当社が非常に重視しているのが、成約・入社後の「定着率」です。要するに、マッチング後、求職者が入社された際にはある程度の期間はお勤めいただけるような状態にしていきたいということです。当社で例えるならば、「中銀さんに人材の紹介を頼んだら、すぐ辞めるようなとんでもない人を紹介された!」といった声がお客さまから返ってきて、本業の金融業の関係性に影響が出てしまうような展開になってしまっては、本末転倒です。これを避けるためにも「定着率」を重視した事業運営を行わなければとの考えからです。
NTTビジネスソリューションズと進める共同実証
セミナー投影資料より
吉田)
こうした課題を明確にして、実際に企業さんから求人のご依頼をいただいて紹介を行なっていくのですが、なかなか人って見つからないですよ。何かモノを売るということとは意味が違いますから。「求人要件にピッタリと合う人はそうそういない」ということは企業さんも理解されていますが、人を紹介するにあたっては、スカウトをして、面談をして、紹介の承諾を得て、それでも見つからなかったら提携する人材紹介会社に交渉して情報連携をしてもらうと時間だけが経ってしまいます。これらのプロセスにスピーディー、かつ質を担保(優秀な求職者が入社した職場にフィットして一定期間勤続できる)した形で対応をするにはどうしたらいいのだろうかと考えていたところでNTTビジネスソリューションズ(以降、NTTーBS)さんに「キャリアナビゲーションtotoma(以降、totoma)」をご提案いただき、課題解決に向けた共同実証を行うことになりました。
共同実証取り組み概要(NTT-BSプレスリリースより抜粋)
NTTビジネスソリューションズは、NTT西日本グループで職種や職層毎に求められる業務内容・能力・スキル要素を網羅的かつ詳細に可視化してきた職務要件の言語化、データ化等のノウハウを活用し、一般市場向けにアレンジした「職務テンプレート」を作成しました。この「職務テンプレート」に基づき、求人要件の充足度を数値化した求職者データとのマッチング精度を高めていくとともに、求職者個々の現状ならびに補うべきスキルを明確化させたうえで、パーソナライズ化された独自のリスキリングプログラムを受講し、求めるレベルとのギャップ解消を図る検討をちゅうぎんヒューマンイノベーションズと共同で実施していきます。
吉田)
先ほど説明した当社が直面している課題や地方が直面している「労働力不足」といった課題は、求人側と求職側双方で、必要・保有するスキルが明確化されていない中でマッチングをしていることによるミスマッチや、地方が都市部に比べ求人要件にマッチするような有スキル人材が少ないといった「スキル」によるものではないかと考えました。
そこで今回NTTーBSさんの「totoma」を用いて最初に実施したのは、
求人側が「どんな人材を求めているのか」ということを職種・役職別に「スキル要件」として明確に定義し、その「スキル要件」に基づいて求職者を診断し、今の「スキルレベル」を見える化することでした。
- ※今回の共同実証は中国銀行で出向候補になっている行員(≒求職者側)と、出向先候補の企業(≒求人企業側)を対象にして効果を検証。
セミナー投影資料より
まずは、求人側について。
当社のような金融機関が運営する人材紹介事業者は、銀行業でのお取引や事業性評価を実施していることもあり、一般の人材紹介事業者よりも求人企業そのものを理解するための時間を短縮することができます。そのため、求人企業にヒアリングを行う際には、一般的に求人票の叩き台のようなものをお持ちした上で社長をはじめとした採用ご担当者の考えや想いのような部分を深くお聞きして正式な求人票(案)を作成していきます。
そのヒアリングの中で、求人企業側の「どんな人材を求めるのか」ということを具体的にしていくのですが、実際にNTTーBSさんと求人企業側にヒアリングに伺い、「この求人情報であっているのか」、「OOというポジションを募集しているが要件は違わないだろうか」というみたいな形で求人企業側のニーズを具体的にしていくのですが、その際に「totoma」を活用しました。(一般市場向けに職種や職層毎に求められる業務内容・能力・スキル要素を言語化した「職務テンプレート」は)募集するポジションでどんな人を求めるのかが具体的な業務レベルで定義されているので、それを基準にヒアリングの中で調整を行なっていくような形です。
同じ職種や役職でも会社や規模感が違えば求めることは違ってきますが、一般的に共通して求めるスキル要件はあり、その明確な基準があれば求人要件をより具体化させることでできることが今回の共同実証で見えてきました。実際に岡山県内の企業の数社で総務部長の求人でヒアリングを行った際には、「totoma」の職務テンプレートを用いてヒアリングを行ったことで、「ウチで総務部長するならこのレベルまでいるよ」といった声や「そこまでウチは大手企業じゃないから、尖ったスペシャリストよりは、他の業務もトータル的にこなせる方がいい。「総務部長」という区切りよりは、「経営管理部長」のようなイメージで見てほしい」といった声をお聞きすることができ短時間でより企業のニーズにあった求人票(案)作成ができました。
次に求職者側について。
今回の実証実験では、中国銀行の出向候補になっている行員を求職者と見立てて実証を行いました。(「totoma」の職務テンプレートを使って)先ほどの求人企業へのヒアリングから作成した求人票をもとにして求職者のスキル診断を行います。質問票のようなものに答えていく感じです。これによって「その求職者が今どのレベルにあるのか」といったことが明確に見える化されるようになりました。その結果を求人企業の要件に(「totoma」のシステム内で)当てはめた時に、「求人要件に対してどのぐらい合致しているのか、ギャップがあるのか」といったことが点数として見えるようになりました。
このスキル診断を受けさせたことは求職者の意識を変えるうえでも非常に役に立ちました。今回の共同実証では求職者側である中国銀行の行員にこれを受けさせようとした時は、「面倒くさい」といった反発の声はすごく多かった(笑)。でも実際に診断をして結果が出て、「あなたの(この職種に関する)能力は今このぐらい」、「この部分を頑張ることでマッチングするようになる」といった現状と対策をはっきりと言ってくれるので、出向をする社員は自分での学び直しやリスキリングの提供といった部分が受け入れやすくなっていきましたし、効果として実感ができています。
(今後数年の間増える)出向の人材に関して、求人企業にマッチするように人材をしっかりと育てていかないといけないなというところもあるので、このスキルの可視化に合わせた教育のシステムも開発しようと検討も進めているというところです。
セミナー投影資料より
NTTーBSさんと実際に共同実証を進めていくことで、求人企業と求職者(今回の実証実験では出向候補の中国銀行行員が該当)両者のニーズにハマっているという実感が得られています。これは行員に限ったことではないかもしれませんが、やっぱり銀行に長い期間勤め続けていると「自分の経歴は?何ができるのか?」と振り返る機会ってあまりないのではないでしょうか。で、ある日突然「55歳ぐらいになって出向してください」と言われても「何が自分には(違う企業で)できるんだろう...」というような状態になる方はかなり多いです。
そういった中でNTTーBSさんの「totoma」は、(スキルの状態を測る)「客観的な物差し」を作る上で非常に有効なシステムであると思いますし、そういった意見が実際に(「totoma」のスキル診断を)受けられた方達からも出てきています。
今後はこの共同実証で得られた「スキルの定義・見える化によるマッチング」や「出向コンサルティング」の知見を活かして、当行から出向を目指す方々を対象にした「実験」から、一般の求職者を対象にした両手型モデルの拡大に加えて、他の金融機関さまへソリューションとしてサービスを提供する「実践」へと繋げていきたいと思います。
視聴者からの質問
セミナーの中に参加された地域金融機関に皆さまから寄せられた様々な質問に関して、吉田氏よりご回答いただきました。(本レポートではその一部を抜粋して掲載します。)
Q)
「出向コンサルティング」に関して2点教えてほしい。
1点目は、行員の出向は業務出向という形で銀行に戻ってくることを前提としているのか、あるいは転籍見込みで行なっているのか
2点目は、別会社を設立という形をとっているが、銀行本体のままでは自行の行員は「出向コンサルティング」という扱いにはできないのか。
A)
吉田)
1点目:転籍を予定した出向になります。おおよそ2年ぐらいを目処に転籍する形で出向させています。私自身も30代の時に3年程度出向を経験していますが、当時はリレーションシップバンキング施策の一貫でしたが、現在はその選択肢がないので、基本的には55歳前後の役職定年を迎える方を転籍前提で出向させるような形をとっています。
2点目:銀行本体では、行内外問わず、「出向コンサルティング」はできないという監督官庁からのご意見もあり、これまでの自行行員の無償出向を有償化させるためには別会社にする必要となることも当社を設立するに至った経緯のひとつにもなっています。
Q)
「有料職業紹介」と「出向コンサルティング」は何が違うのか?雇用や費用といったところでどんなイメージの違いがあるのか。
A)
吉田)
雇用としてはアプローチが違うイメージです。例えば「経理部長というポジションが不足しています」という状況に対して、外部から求職者探してくるのが通常の有料職業紹介のアプローチ。これに対して、自行から人材を探してご紹介するのか「出向コンサルティング」のアプローチです。企業さんから見て採用するというところに関しては全く変わらないところになので採用のバリエーションが一つ増えたものとイメージしていただければと思います。
費用面としては、「出向コンサルティング」で紹介を行えば求人企業側の費用を抑えることができるという特徴があります。社会保険料などの年収とは別の部分を出向負担金として紹介した企業さんから銀行がいただき、差額である出向者(行員)のお給料に関しては、出向元の銀行から出支給されるような形です。例えば、企業さんの負担する出向分担金以上の人材が雇用できるような形になれば求人企業としても費用的なメリットが生まれるイメージです。
セミナーに参加した金融機関の声
セミナー後に実施したアンケートでは、会場にお越しになった他の金融機関から様々な感想をいただきました。感想を寄せてくださった参加者の皆さまありがとうございました。
「出向コンサルティングの概要は参考になった」
「業界としては「両手型」が少ないなか、実行する地銀さんの考え方、アプローチを聞くことができ参考になった」
「本業の収益が厳しくなる中で、銀行の中長期的な目線、挑戦、工夫を知ることができた」
「出向コンサルティングの話は興味深く聞かせて頂きました」
「(共同実証に使用した)totomaの実際の活用事例が見たい」
まとめ
左より、吉田氏、田所洋氏(ちゅうぎんヒューマンイノベーションズ営業本部部長)
※所属・役職はセミナー開催時のものになります。
今回のレポートでは、2024年2月9日(木)に開催されたセミナー「人材紹介事業とリスキリング事業の展開状況と展望」の基調講演の内容をダイジェストでご紹介しました。
第2部の意見交換会からは、共に実証実験を行なったNTTビジネスソリューションズで「キャリアナビゲーションtotoma」の開発を統括する成田佳郎氏がモデレーターとして参画し、他の地域金融機関の事例や体験も交えた活発な議論が行われました。
左より、成田氏(NTTーBS)、吉田氏
※所属・役職はセミナー開催時のものになります。
NTTビジネスソリューションズ、及びNTT西日本グループでは、定期的にこうしたセミナーの開催とコラムサイト「Bizナレッジ」での情報発信を行なっております。ぜひ、これからの情報もチェックしてみてください。
イベント情報(NTT西日本):https://www.ntt-west.co.jp/business/event/
イベント情報(NTT-BS):https://www.nttbizsol.jp/event/
Bizナレッジ:https://www.nttbizsol.jp/knowledge/
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