ICTで経営課題の解決に役立つコラムを掲載
ICTが大きなカギとなる、サーキュラー・エコノミーへの転換
資源問題や地球温暖化等、地球規模でさまざまな問題が山積する現在、従来の経済システム全体のコンセプトを変革することが求められています。
これまでの経済システムは大量生産・大量消費・大量廃棄型のリニア・エコノミー(線型経済)でした。
そこで、現在は3R(Reduce、Reuse、Recycle)に加え、資源をできるだけ使わずに循環させていく、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)への転換が求められています。
現在、EUをはじめ、さまざまな国がサーキュラー・エコノミーに取り組んでいますが、サーキュラー・エコノミ―とはそもそもどのようなもので、どのような取り組みが行われているのでしょうか。ICTの果たす役割とは?
国際的な動向やICTを活用した取り組み事例もまじえながら、わかりやすく解説します。
地球規模の課題に対するシステムソリューション
まず、サーキュラー・エコノミーの基本を押さえていきましょう。
線型経済から循環経済へ
現在は、資源、エネルギー、食料需要の増大、廃棄物量の増加、気候変動等、さまざまな環境問題が山積し、深刻化しています。※1
それは、地球から資源を採取し、それを使って大量に製品を作り、最終的には大量の廃棄物として捨てるという、一方向の経済活動がもたらしている問題です。
こうした大量生産・大量消費・大量廃棄型のリニア・エコノミー(線型経済)に代わるのが3Rからなるリサイクル・エコノミーです。しかし、リサイクルではカバーしきれない膨大な廃棄物が蓄積しつつあり、このシステムだけでは資源浪費を抑えることができなくなっています。※2
一方、サーキュラー・エコノミーは、デジタル化やシェアリングによって資源をできるだけ使わず、循環させていくことを基本コンセプトとしています(図1)。※3
図1 リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへ
以下を参考に図を作成しています。
出所)環境省「令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第1部>第2章>第2節 循環経済への以降>1 循環経済(サーキュラーエコノミー)に向けて」
サーキュラー・エコノミーの三原則
サーキュラー・エコノミーを推進するイギリスのエレン・マッカーサー財団はサーキュラー・エコノミーの三原則として以下の3点を掲げています。※4-1
- 第1原則:Eliminate waste and pollution(廃棄物と汚染をなくす)※4-2
現在、私たちの経済は、「採る・作る・捨てる」のシステムで動いている。私たちは地球から原材料を採取し、そこから製品を作り、最終的には廃棄物として捨てている。この廃棄物の多くは、埋立地や焼却炉で処理され、失われていく。地球上の資源は有限であるため、このシステムは長期的には機能しない。 - 第2原則:Circulate products and materials(製品や素材を最も価値のある状態で循環させる)※4-3
材料・資源を、製品として使い、使えなくなったら部品や原材料として、使い続ける。そうすれば、廃棄物はなくなり、製品や素材が本来持っている価値を維持することができる。 - 第3原則:Regenerate nature(自然を再生させる)※4-4
線型経済からサーキュラー・エコノミーへ移行することで、自然のプロセスをサポートし、自然が繁栄するためのより多くの余地を残すことができる。
サーキュラー・エコノミーとは、気候変動や生物多様性の損失、廃棄物、汚染等の地球規模の課題に対するシステムソリューションの枠組みなのです。※4-1
新たな経済成長モデルとしてのサーキュラー・エコノミー
サーキュラー・エコノミーへの転換は、地球規模の環境問題を解決するだけでなく、企業の事業活動の持続可能性を高めるため、ポストコロナ時代における新たな競争力の源泉となる可能性を秘めています。サーキュラー・エコノミーによる経済効果はグローバルで4.5兆ドルという試算もあります。※2※3
そこで、現在は、新たなビジネスモデルが国内外で台頭してきています。
ICTは新たなビジネスモデルのカギ
日本政府も、サーキュラー・エコノミーへの転換は事業活動の持続可能性を高め、中長期的な競争力の源泉となり得ると考えています。そこで、2020年5月に「循環経済ビジョン2020」を公表し、サーキュラー・エコノミーへの移行を加速させるための方向性を示しています。
以下の図2は、「循環経済ビジョン2020」が掲げる、サーキュラー・エコノミーの概念図です。※1
図2 サーキュラー・エコノミーの概念図
以下を参考に図を作成しています。
出所)経済産業省「循環経済ビジョン2020」p.52
このビジョンでは、サーキュラー・エコノミーを「あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、付加価値の最大化を図る経済」と定義しています。
ここで見逃せないのが、サーキュラー・エコノミーを基盤とする新たなビジネスには、ICTが不可欠であるということです。
現在は特に、IoT(Internet of Things)、ビックデータ、AI 等の新しいICTの発展は目覚ましく、さまざまな社会課題解決への貢献が期待されています。
また、ICTの発展にともない、単にモノを売るビジネスモデルにとどまらず、 モノを通じてサービスを提供するビジネスモデルが広がりをみせています。
その中でも特に、プラットフォーム型の新たなビジネスモデルである、シェアリングやサブスクリプションは図2にもみられるように、サーキュラー・エコノミーと大きな関連があります。
シェアリングは、民泊、空間・遊休施設、車、衣類等のモノの共有にとどまらず、スキル や地域活動等のサービスにまで広がりを見せていますが、製品の稼働率を向上させ、資源のより効率的な使用を促すという点でサーキュラー・エコノミーに貢献します。
また、サブスクリプションは、利用した期間に応じた課金と引き換えに製品の持つ機能を提供するサービスで、自動車から、家電、家具、デジタルコンテンツ、ソフトウェア、化粧品、食料品、生活雑貨に至るまで、その幅を広げています。
このような新しいビジネスモデルは、資源効率性の向上に貢献し、新たな付加価値を産み出すため、サーキュラー・エコノミーへの転換には欠かせないのです。
ICTを活用した取り組み事例
次に、環境省「令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」で紹介されている、ICTを活用したサーキュラー・エコノミーの取り組み事例をみていきましょう。※3
これは、上述のシェアリングやサブスクリプションとは異なるICTの活用によって、次世代型スマートアグリ(ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業 ※5)を展開している事例です。
富山環境整備は、富山県富山市の中山間地域を拠点とし、廃棄物処理を軸とした地域循環共生圏の取り組みを進めています。 ※3
2つの焼却発電施設から発生する熱と電気を利用し、ICTを活用した温室ハウス28棟(4ha)でフルーツトマトやトルコギキョウを栽培しています。
図3 「廃棄物由来エネルギーで創る、次世代型スマートアグリ」の事業領域図
以下を参考に図を作成しています。
出所)富山環境整備「廃棄物由来エネルギーで創る、次世代型スマートアグリ」
この事業の「ICT等を活用した高付加価値農業のパイロット実証事業の取り組み」を詳しくみていきましょう(図4)。※6
図4「ICT等を活用した高付加価値農業のパイロット実証事業の取り組み」
以下を参考に図を作成しています。
出所)富山環境整備「廃棄物由来エネルギーで創る、次世代型スマートアグリ」
ICTによって、多種多様なデータを数分ごとに収集し、収集したデータを計測・分析します。その分析によって、より高度な制御方法や栽培最適条件を見つけ、効率的、安定的に栽培を行っているのです。
また、ハウスごとに1か月ずつ栽培時期をずらし、1年を通して安定した収穫が行えるような取り組みもしています。
デバイスを活用することにより、栽培環境がどこでも確認でき、さらに作業進捗をデータ化し、労働管理をすることで、作業の効率化も図っています。
栽培したトマトは全国へ販売するとともに、栽培した農作物を最大限に活用するために、加工・販売施設も完備しています。
こうした事業は、地域の雇用創出にもつながっています。
2024年には第3焼却発電施設が稼働予定で、より多くの熱・電気の供給が可能となります。それを契機に、農業だけでなく、レジリエンス強化や地域産業と連携した新たな事業展開への活用が期待されます。※3
廃棄物処理を軸として地域と共生する、こうした取り組みは、脱炭素社会の実現に寄与するだけでなく、地域循環共生圏の核となり、サーキュラー・エコノミー社会の構築につながります。
サーキュラー・エコノミー、世界の動きは?
ここでは、サーキュラー・エコノミー実現のためには何が必要かを押さえた上で、国際的な動向をみていきます。
国際的な連携の必要性
今後は、従来の環境政策主導型からサーキュラー・エコノミー型社会への移行が加速するとみられていますが、そのためには、デジタル技術の導入とともに、国際的な連携によってサプライチェーン全体を最適化し、価値提供をすることが必要だと考えられています。※7
以下の図5は、サーキュラー・エコノミー型社会への移行に関する国際動向をまとめたものです。(CEはサーキュラー・エコノミーの略)
図5 CE型社会への移行に関する国際動向
以下を参考に図を作成しています。
出所) 経済産業省 循環経済ビジョン研究会「欧州のサーキュラー・エコノミー政策について」(有限責任監査法人トーマツ)p.17
EUの動向
ここで、サーキュラー・エコノミーを牽引するEUの動向をみてみましょう。
EUにおいてサーキュラー・エコノミーが確実に成長戦略として位置付けられたのは、2015年に欧州委員会が2030年に向けた成長戦略の核として、サーキュラーエコノミーパッケージを承認したことによります。※8
翌2016年には、54におよぶ具体的なアクションプランを採択しましたが、これらは全て実施中または実施済みで、2012年から2018年にはサーキュラー・エコノミーに関する400万人の雇用を創出しました。
欧州委員会は2020年3月、EU全域でサーキュラー・エコノミーを加速させるための新計画「New Circular Economy Action Plan(新循環型経済行動計画)」を公表しました。※9
この新計画は、従来のサーキュラー・エコノミー政策をさらに推進する目的で策定されたものです。
その発表に先立ち、2019年12月にはEUの新たな経済・環境・社会政策である「欧州グリーンディール」が発表されており、同行動計画はその重要な柱と位置付けられています。
サーキュラー・エコノミーへの転換のカギとなるICT
これまでみてきたように、EUをはじめさまざまな国がサーキュラー・エコノミーへの転換を政策的に推進し、付加価値を生む市場が生まれつつあります。※10
一方、地球環境の持続可能性を損なう事業活動は、事業継続上の重大なリスク要因と認識されるようになってきました。
循環性の高いビジネスモデルへの転換は、環境問題のソリューションであるとともに、事業活動の持続可能性を高め、中長期的な競争力の確保にもつながるものです。
サーキュラー・エコノミー推進を「環境と成長の好循環」につながる新たなビジネスチャンスと捉え、経営戦略・事業戦略として、ビジネスモデルの転換を図ることが重要です。
そして、サーキュラー・エコノミーへの転換のカギとなるのがICTです。ICTはサーキュラー・エコノミー型社会の実現において重要な役割を担っているのです。
参考資料一覧(ページ数は、参考文献内の表記に準じています)
- ※1 経済産業省「循環経済ビジョン2020」p.31, p.52, p.19-20
- ※2 伊藤宏一(2020)「サーキュラー・エコノミーとESG投資」(「生活経済政策」2020.9 No.284)p.24, p.25
- ※3 環境省「令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第1部>第2章>第2節 循環経済への以降>1 循環経済(サーキュラーエコノミー)に向けて」
- ※4-1 Ellen Macarthur Foundation "Circular economy introduction What is a circular economy?"
- ※4-2 同上 "Eliminate waste and pollution"
- ※4-3 同上 "Circulate products and materials"
- ※4-4 同上 "Regenerate nature"
CIRCULAR ECONOMY JAPAN - ※5 農林水産省「スマート農業」
- ※6 富山環境整備「廃棄物由来エネルギーで創る、次世代型スマートアグリ」
- ※7 経済産業省 循環経済ビジョン研究会「欧州のサーキュラー・エコノミー政策について」(有限責任監査法人トーマツ)p.17
- ※8 Circular Economy Hub「欧州連合(EU)」
- ※9 Circular Economy Hub「欧州委員会が新たな『Circular Economy Action Plan(循環型経済行動計画)』を公表」
- ※10 経済産業省「循環経済ビジョン2020(概要)」p.4, p.3
あわせて読みたいナレッジ
関連製品
Bizナレッジキーワード検索
- カテゴリーから探す
- 快適なオフィスの実現
- 生産性向上
- 労働力不足の解消
- セキュリティー対策
- ビジネス拡大
- 環境・エネルギー対策