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「デザイン思考」を知ろう
企業と顧客を結び、社会問題解決の糸口にも

近年、ビジネスシーンや社会問題解決の糸口として「デザイン思考」が注目されています。

「デザイン」というと、デザイナーが服や建築物等の外見を整える行為をいうことが多いですが、「デザイン思考(デザインシンキング)」における「デザイン」とは「問題解決の方法等を設計する」という意味合いを持ちます。

さまざまな現場で応用される「デザイン思考」の意味や、ICTでの社会問題解決への取り組みをご紹介します。

「デザイン思考」誕生の背景

デザイン思考はアメリカのスタンフォード大学により設立されたd.school(Hasso-Plattner Institute of Desigh at Stanford:ハッソ・プラットナー・デザイン研究所)が提唱したものです。同研究所によるとデザイン思考は5つのステップがあるといいます。※1

  1. 共感(Empathize)
    意味あるイノベーションを起こすには、ユーザーを理解し、彼らの生活に関心を持つ必要がある
  2. 問題定義(Define)
    正しい問題設定こそが、正しい解決策を生み出す唯一の方法
  3. 創造(Ideate)
    正しいアイデアを見つけるためではなく、可能性を最大限に広げるために行う
  4. プロトタイプ(Prototype)
    考えるために作り、学ぶために試す
  5. テスト(Test)
    テストは、自分の解決策とユーザーについて学ぶための機会

デザイン思考とは、上記5つのステップをふまえ、最先端で開発される「技術」と「顧客や社会」とを繋ぐためのビジネスモデルや社会問題の解決方法を探っていくものです。

日本におけるイノベーションは「技術革新」と翻訳されてきましたが、それは研究開発によって新しい技術を生むこと、という「発明」のような部分にフォーカスされて使われてきた言葉ではないでしょうか。

しかし、新しいものの「発明」は、それ単体が顧客や社会のニーズに繋がるわけではありません。この間には「死の谷」が存在するとされています(図1)。

図1 技術開発と社会実装の間の「死の谷」

以下を参考に図を作成しています。
出所)「『デザイン経営』宣言」経済産業省・特許庁 p2

新しい技術は社会実装されて初めて意味を持つにもかかわらず、研究室と社会実装の橋渡しがうまくできていないという指摘です。

ときに技術者には、狭い領域での技術を「細く深く」追求しがちという側面があります。しかしそのような追求をすればするほど、社会のニーズから遠ざかっていってしまうのは珍しいことではありません。

こうした課題を解消するのに必要なのが「デザイン思考」です。

顧客と「つながる」アプリのデザイン

現在、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みを迫られているところですが、DXの一環として「顧客とのつながり」を重視したマーケティングを展開している企業があります。

アパレル等、商業施設を展開しているPARCOでは、顧客とつながるマーケティングの一環としてスマホアプリが設計されています。

パルコのアプリ「POCKT PARCO」にはさまざまな仕掛けがあります(図2)。

機種名 概要 情報収集可能な消費者行動
CLIP アプリ内のショップブログ記事を閲覧する際、お気に入りの記事を登録するとポイントが付与される。 【来店前】
来店きっかけとなった可能性のある情報が把握できる
CHECK IN 来店時にアプリを操作することで、チェックインと見なされポイントが付与される。 【来店中】
来店したタイミング(時間、店舗)が把握できる。
WALKING スマートフォンの歩数計測機能とアプリをユーザーが連携許可することで、来店中の一定歩数分ポイントが付与される。 【来店中】
来店中の消費行動 (一定歩数)が把握できる。
CONVERSION アプリへ事前に登録したクレジットカードで買い物をすることで、ポイントが付与される。 【来店中】
来店中の消費行動 (購入)が把握できる。
STAR RATING 来店後の顧客に対して、プッシュ通知にてアンケート評価(5段階)を依頼され、回答することでポイントが付与される。 【来店後】
来店後の消費者意識 (来店した店舗への評価)が把握できる。
図2 パルコ「POCKET PARCO」の機能概要

以下を参考に図を作成しています。
出所)「O2O及びOMOの現状に関する調査研究報告書」総務省資料 p14

人気テナントや来店客の入館時間、店舗を把握できるのも直接顧客の動向に触れることのできる機能ですが、他にも注目してみましょう。

まず、「WALKING」機能の魅力です。「歩くほどポイントが貯まる」というのは健康志向にもマッチするでしょう。そして「STAR RATING」機能は、顧客との直接対話に近いものがあります。

マーケティングの課題でもある顧客の動きがリアルに可視化される点では、マーケティングと顧客を直接つなぐ「デザイン」であるといえます。


最新のデジタル技術で児童労働を防ぐ

最新のデジタル技術を社会問題の解決につなげる試みも始まっています。

児童労働は世界的に大きな問題になっています。
世界では約1.5億人の子供が児童労働に従事しており、その多くは農業部門で働いています※2

カカオやコーヒー豆等について「フェアトレード(=公正な取引)」という概念があるのはご存じの方も多いでしょう。
実際、ガーナのカカオ農家は一日あたり50円ほどの収入しか得ていないということです※3。貧困層は子どもの労働収入に頼るほかなく、学校にも行けない子どもたちが多いのです。

こうした問題を、最新のデジタル技術である「ブロックチェーン」で解消しようという実験が始まっています。

ブロックチェーンの特徴は「改ざん不可能な台帳」を誰もが共有・閲覧でき、同時にモノの流れを追いかけることができる「トレーサビリティ」です。
そこで、コートジボワールでは、カカオ農家、倉庫・流通業者、工場、小売店でどのような取引がされているかをトレースするという将来像のために詳細な調査が行われています(図3)。

図3 カカオのトレーサビリティシステム将来像

以下を参考に図を作成しています。
出所)「コートジボワールにおけるブロックチェーンを活用した児童労働の防止に係る調査 開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム 第1回児童労働分科会」デロイトトーマツコンサルティング、JICA p5

図の中央にある、「トレーサビリティシステム」がブロックチェーンによる「改ざん不可能な台帳」にあたります。この台帳を関係各所が共有し確認できる、つまりカカオの各所での取引を可視化することで不公平な取引がないかどうかをチェックし、それを防ごうという考え方です。

またJICA等は、学校の出欠データとも情報を結びつけ、児童労働を追跡できるシステムをめざしています※4

最新技術と社会問題の解決を直接結びつける考え方です。


具体的な場面を意識した製品・サービス設計

デザイン思考は、企業にも大きなメリットをもたらしています。

デザイン思考に沿った企業経営は「デザイン経営」と呼ばれますが、「デザイン経営」のために投資を行った欧米企業は、大きな利益を得ていることがわかっています(図4)。

図4 デザイン経営への投資効果

以下を参考に図を作成しています。
出所)「『デザイン経営』宣言」経済産業省・特許庁 p5

左からみていくと、デザイン投資にかけた金額に対し4倍の利益があった、またデザインへの投資によって企業の株価は10年間で2.1倍に成長したという調査結果が出ているのです。

もちろん、企業にとってさまざまな研究は欠かせません。しかしそこに「デザイン思考」を取り入れることで、経営の姿は大きく変わることでしょう。

スタンフォード大学でデザイン思考を学び数々の著書を発行しているジャスパー・ウ氏は、すべての中心には「人」がいる、そして「人」こそがサービスや製品、あるいはシステムのあり方・つくり方に影響を与える、非常に重要な要素である、と説いています。※5

「人」にフォーカスした製品やサービスの設計は、ビジネスの基本中の基本であり、その原点に立ち返る必要性が高まっているのです。


参考資料一覧(ページ数は、参考文献内の表記に準じています)

  1. ※1 「スタンフォード・デザイン・ガイド デザイン思考 5つのステップ」スタンフォード大学 ハッソ・プラットナー・デザイン研究所
  2. ※2 「児童労働について知っておきたい5つのこと」国際労働機関
  3. ※3 「児童労働のないカカオのために」JICA
  4. ※4 「コートジボワールにおけるブロックチェーンを活用した児童労働の防止に係る調査 開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム 第1回児童労働分科会」デロイトトーマツコンサルティング、JICA p6
  5. ※5 ジャスパー・ウ、見崎 大悟、 実践 スタンフォード式 デザイン思考 世界一クリエイティブな問題解決 (できるビジネスシリーズ) (Japanese Edition) (p.13). Kindle 版.

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