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「優秀な人材」の定義とは?人材育成のプロに聞く、これからの時代に求められるハイパフォーマー分析―前編

高度な技術革新が進む一方で、長い間、高い市場価値を誇っていた特定のスキルや知識もテクノロジーの進化により、その価値を見直す必要に迫られています。先を見通すことが難しいVUCAの時代において、社会が求める人材をどう育てるべきか、また、生成AIが驚異的なスピードで席巻していく中で「人本来の能力」を可視化し、習得するには何から始めたらいいのか、人事育成分野での課題となっています。
今回は、国内外で豊富な人事・人材育成制度設計やコンサルティング業務を行ってきた株式会社T&Dコンサルティングの増子裕介氏にこれからの時代に求められる「優秀な人材の定義」について伺いました。

「優秀な人材」の定義とは?

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優秀な人材とは、「ある分野・集団で、継続的かつ安定的に高い成果を上げている人材」と定義できます。

会社・組織は「言われなくてもできる層」「言われればできる層」「言われてもできない層」の3層があると言われています。

その中で、上位2割を占める「言われなくてもできる層」が優秀な人材(ある分野・集団で、継続的かつ安定的に高い成果を上げている人材)=ハイパフォーマーに当たります。

  • ※増子氏の著書(「ハイパフォーマー思考 高い成果を出し続ける人に共通する7つの思考・行動様式」ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中では、優秀な人材を「ハイパフォーマー」と表現しています。

なぜハイパフォーマーは継続的かつ安定的に高い成果を上げることができるのか?

ハイパフォーマーが継続的かつ安定的に高い成果を上げることができる理由は、「特徴的な思考・行動様式」を持っていることです。

増子氏は、1,000人以上のハイパフォーマーにインタビューし、その発言内容を精査する「ハイパフォーマー分析」を行うことで、彼ら彼女らに共通する思考・行動様式の抽出を実現しました。

抽出された思考・行動様式は、ハイパフォーマーであるための「欠かせない要素」ということができます。

抽出されたハイパフォーマーの思考・行動様式の活用方法

抽出されたハイパフォーマーの思考・行動様式の活用方法は色々ありますが、社員全員に実践してもらうことが究極のゴールです。 簡単に言えば、ハイパフォーマーの思考・行動様式を「真似してもらう」ということです。

平均的な人材がハイパフォーマーの思考・行動様式を真似しても成果は出にくいのではないか、と思われる方も多いことでしょう。しかし、増子氏が電通在籍時に人事局員として関わったプロジェクトでは、劇的な成果を上げています。

クライアント企業の場合でも、目に見える成果が出て喜ばれることが多いと言います。ハイパフォーマー分析の結果をお伝えすると、先方の経営幹部は例外なく「その通りです!」「まさにこれです!」と膝を叩くそうです。

つまり、経営や人事に携わる人の多くは「自社においてどのような人材が優秀なのか(ハイパフォーマーなのか)」を何となくは把握しているものの、「なぜ優秀なのか」の理由を明確に「見える化(言語化)」できていません。

そこで、役立つのがハイパフォーマー分析です。ハイパフォーマー分析は、まさにハイパフォーマーの優秀さを「見える化(言語化)」するメソッドだからです。

そもそも「ハイパフォーマー分析」とは

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増子氏がハイパフォーマー分析を知ったのは、電通在籍時に人事を担当するようになってからです。

はじめのミッションは「海外のグループ会社を人材面から強化する」という内容で、具体的には電通の海外拠点の人事・人材育成面のサポートをすることでした。ところが、当時は人事コンサルタントレベルのスキルを持つ人材が社内にいなかったのです。

そこで、日本中の人事コンサルティング会社に声を掛けたところ、その中で見つけたソリューションが「ハイパフォーマーインタビューに基づき、優秀人材の思考・行動様式を見える化し、それを全社員にインストールする」というものでした。

これが、増子氏がハイパフォーマー分析を知ったきっかけで、自身も様々な人事コンサルタントとの協業を通じてOJT的にノウハウを学んだと言います。以前から日本でもこのスキーム自体は存在していたものの、目覚ましい導入事例がなかったことから、あまり機能していなかったことが伺えるでしょう。

人材育成に興味を持ったきっかけ

ハイパフォーマー分析を通じて人材育成に成功した増子氏ですが、人材育成に興味を持ったのは、入社以前の学生時代。

勉強やスポーツに限らず、周囲を見て「うまくいっている人と、いっていない人の差が激しい」と感じ、「ある程度のレベルまでは、やり方次第で効率的に誰でも到達できるのではないか」と考えていたと増子氏。

社会人になり、「うまくいっている人と、いっていない人の差が激しい」「やり方次第で、もっと効率的にできるはず」という気持ちがさらに強くなった結果、「効率的な学び方・成長の仕方を多くの人が実践できるノウハウを構築したい」という想いにつながり、「ハイパフォーマー分析」として結実したのです。

ハイパフォーマー分析で効果を上げるためには「具体的な記述内容」が重要

「ハイパフォーマー分析で効果を上げるためには、抽出された思考・行動様式を"具体的な記述内容"に落とし込むことが重要です」と増子氏。

一例として、「電通インドネシア」に対する施策を紹介します。ローカル社員を中心に約200名が在籍する電通インドネシアでハイパフォーマーインタビューを行い、トップ社員が実施している思考・行動で、成果に結びついていると思われる要素を抽出しました。

増子氏の著書の中では、ハイパフォーマーの思考・行動様式を7つ紹介していますが、電通インドネシアのケースでは、たとえば「クライアントから注文がなくても、自主的に企画を考えて、提案する」という行動が抽出できました。

これは、非常に具体的な記述内容ということができます。

もし、「クライアントから注文がなくても、自主的に企画を考えて提案する」ことを「顧客ファースト」という単語レベルで記述したらどうでしょう。言っていることはおぼろげに伝わるものの、抽象的なため具体的に何をすれば良いかわからず、実際の行動に結びつけることが困難です。つまり、人材育成における活用は難しいでしょう。

同様に、「リーダーシップがある」「イノベーティブである」といった抽象的な形で記述しても、同じように有効性に乏しく、ほぼ意味がありません。

具体的な記述内容で言語化すれば、やるべきことが明確で、すぐに実践できます。そして、「実践そのものを評価したこと」も、高い効果を上げた要因の一つだと言えます。

電通インドネシアでは、ハイパフォーマーたちの思考・行動様式を実践した人は「売上等の成果に関係なく評価する」という制度を取り入れました。一般的な評価制度は、売上や利益等の成果で社員を評価しますが、「ハイパフォーマーの真似をした人は、それだけで一定の評価を与える」としたわけです。

ハイパフォーマー分析の効果

ハイパフォーマー分析を実施したことによる、具体的な効果を紹介していきましょう。

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国を超えた有効性

電通の海外拠点13社において、それぞれの国でその年の最も優れた広告代理店を選ぶ「エージェンシー・オブ・ザ・イヤー」の受賞や、順位の上昇等目に見える形で効果が現れました。

たとえば、インドネシアの「エージェンシー・オブ・ザ・イヤー」は10部門ありますが、2010年まで電通インドネシアは1部門も獲得できていませんでした。

ハイパフォーマー分析を実施し、ハイパフォーマーの思考・行動様式を社員たちに実践してもらった結果、2011年にエージェンシー・オブ・ザ・イヤーの6部門を独占し、グランプリに相当する「ベスト・オブ・ザ・ベスト」を受賞できたのです。

電通インドネシアの成功はその他の海外拠点でも評判となり、増子氏の元には「うちでも実施してほしい」という要望が多く寄せられ、韓国・香港・タイ・ベトナム等計13拠点で同様のハイパフォーマー分析を実施しました。そして、いくつかの拠点でエージェンシー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、その他の拠点でも順位の上昇につながったのです。

ハイパフォーマー分析は、海外拠点で大きな効果が得られたため、電通本社でも実施することになりました。それが、人材育成スキーム改革プロジェクト「Dentsu Gene」です。

このように、ハイパフォーマー分析の効果について、国を超えた有効性が実証されました。また、「エージェンシー・オブ・ザ・イヤー」の受賞だけでなく、「離職率の低下」「求人ミスマッチの減少」といった定量的な効果も見られています。

離職率の低下

「日本と比較して海外の従業員の離職率は非常に高く、中には、年間の離職率が30%を超える拠点もあります。」と語る増子氏

それが、ハイパフォーマー分析の実践後、離職率が有意に下がりました。 これは、電通の海外拠点13社以外に、複数のクライアント企業でも実証されています。

理由として、電通の海外拠点のケースではエージェンシー・オブ・ザ・イヤーを受賞したため、それ自体に従業員エンゲージメントを高める効果もあったでしょう。

しかしそれよりも、そこで働いている人々が自分の会社に対して「ここにいれば成長できる」と認識できたことが大きかったと考えられます。

つまり、「優秀な人たちの思考・行動様式が見える化されている」「それを実践することで自分の成果や評価が上がる(場合によっては金銭的な報酬につながる)」「クライアントの満足度が上がる」「エージェンシーとしての名声・競争力も上がる」という好循環が生まれ、離職率の低下につながったのです。

現在、日本でも人材の流動化が進んでおり、「優秀人材の思考・行動様式が不透明(見える化されていない=ブラックボックス化している)」ことが、離職につながっている面もあると言えます。「背中で学べ」が若手社員を中心に通用しなくなっているのは、今や世界共通です。

そこで、優秀人材の「何が優れているのか」という要素を見える化し、それを実践した社員を評価すれば、自分の会社に対して「ここにいて成長できるのか?」という疑問は生じないでしょう。

人間には、金銭的インセンティブには関係のない、根源的な「成長欲求」があります。特に現代のような先行きが不透明な時代では、「今の自分より成長したい」「もっと良くなりたい」と考える人が大多数でしょう。

そんなときハイパフォーマー分析は、成長欲求を満たす企業風土作りに寄与し、働く人材のやる気を起こさせるきっかけになるでしょう。

求人ミスマッチの減少

ハイパフォーマー分析は、求人ミスマッチの減少という効果も生んでいます。

例として、ある日本企業のケースをご紹介しましょう。この会社はもともと離職率が低かったため、更に離職率を下げるのは難しい状況でした。しかしハイパフォーマー分析を実施すると、低かった離職率がもっと下がったのです。

具体的には、ハイパフォーマー分析の結果を全社員に実施してもらうだけでなく、採用段階の見極めにも用いたのです。その結果、内定段階での離脱がほぼゼロになり、若年層の早期退職もほとんどなくなりました。

ハイパフォーマー分析の結果に基づき、採用段階で人材を見極めるようにすれば、入社後に優秀人材に育つ確率も高まることがわかります。

NTTビジネスソリューションズの人材管理サービス「キャリアナビゲーション totoma」

キャリアナビゲーションtotomaは「人的資本経営」への関心の高まりを受けて登場したNTTビジネスソリューションズの新サービス。一般的な職種40以上をカバーするジョブディスクリプション(以下、JD)テンプレート等を活用し、ポジションごとのジョブ(職務内容)とスキル要件をデータ化し、効率的な採用、配置、育成、評価を可能にします。

増子氏は、電通の海外拠点をサポートする中で、日本以外の諸外国では人事における必須アイテムとも言えるJDを数多く作成しました。
JD作成に関する豊富な経験と知見を生かし、増子氏はキャリアナビゲーションtotomaの開発に事業協同検討パートナーとして関わっています。

JDは「職務記述書」と訳されますが、人材の経歴を記載する日本の職務経歴書とは全く異なります。

近年、経団連も「メンバーシップ型からジョブ型へ」と主張しており、政府もジョブ型の導入を推進しています。 今までは「会社に長く在籍すれば、年次とともに優秀な人材に成長していく」という前提でしたが、今はそうではありません。

それよりも、その時々における「一人ひとりの市場価値を客観的に評価する」という前提にシフトしています。その際にコアツールとなるのがJDであり、ジョブ型人材マネジメントにおいて企業や個人が成果を最大化する上でも、ハイパフォーマー分析は役立つことでしょう。

関連製品

スキルにフォーカスした人材管理サービス
キャリアナビゲーションtotoma

著書紹介

「ハイパフォーマー思考 高い成果を出し続ける人に共通する7つの思考・行動様式」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

本書では、1,000人の優秀な人材(ある分野・集団で、継続的に高い成果を上げている人材)の分析を通じ、その秘密に迫っています。エビデンスに基づく、具体的な内容が記載されているため、誰もが実践できる点が大きな特徴です。
インタビュー後編では、著書の以下2章について、お話しいただきます。

第1章 そもそも仕事ができること、そして「優秀」の定義とは?
1 時代によって、「仕事ができること」と「優秀」の定義は変わる
2 AI時代のこれからは、知的体力のアップデートが最も重要
3 スキルは陳腐化する(アプリとOSの関係性)
4 「ジョブ型 vs. メンバーシップ型」という不毛な二元論
5 いつの時代でも色あせない普遍的な思考・行動様式とは?
6 大谷翔平の81マスに見る思考・行動様式
7 働き方の3様式

第2章 「ハイパフォーマー分析」とは?
1 優秀さを「見える化」する
2 電通のプロジェクトで分かった「思考・行動様式」の重要性
3 組織の中間層を育てる
4 思考・行動様式を浸透させる5つのステップ
5 エビデンスに基づく「ハイパフォーマー育成の方程式」

【著者紹介】
増子裕介(T&Dコンサルティング代表取締役)

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東京大学卒業後、株式会社電通に入社。 約20年の営業生活を経て、2008年に発足した社長直轄セクションの立ち上げに参加。「海外拠点を人材面から強化する」というミッションにゼロから取り組み、ローカル社員を包含する人事・人材育成の仕組みを開発し、13の拠点に導入。複数の拠点がエージェンシー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、目に見える成果につながった。 電通本社においては新規人材育成プロジェクトを推進し、継続的に高い成果を上げている社員に共通する「能力」の見える化に成功。 独自メソッドに基づく人事コンサルティングに専念すべく、株式会社T&Dコンサルティングを立ち上げ、現在に至る。
事業協同検討パートナーとしてNTTビジネスソリューションズで「キャリアナビゲーションtotoma」の開発に携わる。

関連リンク

キャリアナビゲーションtotoma
https://www.nttbizsol.jp/service/totoma/

キャリアナビゲーションtotomaに関するお問い合わせ
https://form.nttbizsol.jp/inquiry/totoma

「ハイパフォーマー思考 高い成果を出し続ける人に共通する7つの思考・行動様式」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
https://d21.co.jp/book/detail/978-4-7993-2920-7

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