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Bizナレッジ

ICTで経営課題の解決に役立つコラムを掲載

快適なオフィスの実現

ICTがもたらす新しい医療 健康管理の形はどう変化している?

新型コロナの感染拡大をきっかけに、「オンライン診療」「遠隔医療」が注目されるようになりました。現代のICT技術が可能にした、新しい医療の形のひとつといえます。

ただ、医療費の増大や医師の負担が大きくなっている課題は見過ごせません。
これらの課題解決に向けても、ICTを利用した医療に期待が高まっています。

さまざまに進化している医療分野でのICTですが、わたしたちの日常の健康管理、あるいは企業が従業員を管理する際にも役立てられています。
「治療から予防へ」と医療のあり方が変化していくなか、ICTは医療や健康管理に欠かせないものとなっていくことでしょう。

今回は、そんな医療管理とICTとの関係について、具体的事例を用いながらご紹介します。

コロナ禍で注目された「オンライン診療」

新型コロナの感染拡大防止の方法のひとつとして、病院に直接出向かなくてもビデオ通話で診察・診療を実施可能にするオンライン診療が話題になりました。

厚生労働省の統計によると、令和2年4月から令和3年4月にかけては、16,843の医療機関が電話やオンラインでの診療に対応しています。国内の全医療機関の約15%にあたる数字です(図1)。

図1 時限的・特例的に電話・オンライン診療施設として登録した医療機関

以下を参考に図を作成しています。
出所)「令和3年1月~3月の電話診療・オンライン診療の実績の検証の結果」厚生労働省 p3

なかには、初診段階から電話やオンライン診療を実施している医療機関もあることがわかります。

医療の世界でICTを使った手法が浸透しつつあるため、受診する人にとってもやや身近なものになりつつある、といえるかもしれません。

もともとはへき地での医療体制を改善するために実証が始まっていた遠隔医療ですが、「治療から予防へ」という医療界の潮流のなか、現在では日常的な健康管理にもICTの技術が使われています。
以下、具体的な事例を紹介していきたいと思います。

自分でヘルスケアを可能にする技術の数々

自分で行える健康管理に使われている技術として、まず、スマートウォッチは身近な存在です。
スマートウォッチの先駆者であるAppleは「治療から予防」という流れを見通していたかのように、2015年に発売したApple Watchに歩数・歩行距離、心拍数、睡眠データ等を計測できる機能を搭載しました。

そこから一歩進んでAppleは、アメリカの医薬品大手と共同で、認知症や神経疾患の潜在的な症状を有する人の認知機能低下の監視に、Apple WatchとiPhoneをどのように役立てるかを調査する研究を開始しています。
また、アメリカの大手保険会社では従業員の医療費削減を目的に、5万人の従業員に無償でApple Watchを提供し、心電図や心拍、転倒情報を収集しています※1

運動量に応じて手当を支給

日本でも、ウェアラブル機器を利用して、ユニークな形で社員の健康管理や健康維持を実施している企業があります。

大阪市の健康管理ツール開発・販売企業では、リモートワークや自由出勤の環境下での社員の健康管理に「スマートバンド」を利用しています。
社員にスマートバンドを配布し、自宅で社員の消費カロリーを計測・データ化することで、消費カロリーに応じて手当てを支給するものです※2

50kcalというハードルの低い設定を導入し、以下の金額を支給するとしています。

  • 目標をクリアできなかった (50kcal/日未満)
    →その月の「おやつは1日200円まで!手当」支給なし
  • 目標をクリアできた(50kcal/日以上、150kcal/日未満)
    →「おやつは1日200円まで!手当」支給
  • 目標の3倍をクリアできた(150kcal/日以上)
    →「おやつは1日200円まで!手当」+運動手当200円/日 支給

実際、このシステムのトライアルでは、「意識して階段を使うようになった!」「消費カロリーを稼ぐために散歩に行ってきた。」という効果が出ています。

ストレスを客観的に判断

資生堂は、人に心理的ストレスが加わると、特徴的な匂いが皮膚ガスとして放出されることを突き止めました※3
この技術を用いてストレスの自己管理をできれば、自分のストレスを自己管理しデータを集めるという社員のストレス管理に役立つ可能性も秘めています。

なお、「このストレス臭」は、「ラーメンにトッピングされたネギの臭い」に似ているとのことです。

認知症予防にもウェアラブル機器の応用

さらには、認知症予防にもウェアラブル機器が利用されています。

東北大学等と共に運営されている脳科学に関する企業では、脳活動の測定・可視化を可能にする小型デバイスを開発・販売しています※4

このデバイスを使って脳活動を可視化することにより、脳トレ等に取り組み、認知症の予防に繋げられる可能性があります。

オンライン診療は継続率が高い?

さて、オンライン診療については、このようなデータもあります。

経済産業省の資料によると、まず、糖尿病については、治療を中断する理由は以下のようになっています(図2)。

図2 糖尿病治療の中断理由

以下を参考に図を作成しています。
出所)「「ウェアラブルやデータ活用による疾病・介護予防や次世代ヘルスケア」経済産業省 p25

「仕事などで時間が取れなかった」というのが最も多いのです。

そして禁煙治療でオンライン診療を取り入れたケースでは、このような結果が出ています(図3)。

図3 禁煙治療の継続率

以下を参考に図を作成しています。
出所)ウェアラブルやデータ活用による疾病・介護予防や次世代ヘルスケア」経済産業省 p25

対面だけでなく、オンライン診療を併用することで、早い段階で治療から脱落した人の割合が大きく減っていることがわかります。

通院にかかる時間が省けることも大きな要因だと考えられます。
このように、ICTを利用した治療は、継続率の向上にも繋がっているのです。

「忙しさ」を理由にしない健康管理へ

ここまで見てきたように、ウェアラブル機器による健康管理は、「通院時間を必要とせず、日々の変化を可視化できる」ことが大きな特徴です。

仕事に追われてしまうと、どうしても少しの変化ならば見過ごす、我慢する、といった人は少なくないことでしょう。
しかし、そういった習慣が疾患につながる可能性が高いのもまた事実です。

病気を自分で予防する習慣をつけるために、これらのデバイスは有用になっていくことでしょう。
また、企業の場合は今後、産業医や提携医療機関等とのデータ共有でより厳密な予防につながる可能性も秘めています。

ICTが医療や健康管理をどこまでスマートにしていくのか。
今後の技術展開に期待したいところです。


参考資料一覧(ページ数は、参考文献内の表記に準じています)

  1. ※1 「令和2年度補正遠隔健康相談事業体制強化事業」経済産業省資料 p7
  2. ※2 「社員全員に健康管理ができるスマートバンドを支給 / 目標消費カロリー達成で『運動不足解消、一緒にがんばろう手当』の導入を決定」株式会社アジャイルウェア
  3. ※3 「『加齢臭に次ぐ大きな発見』、資生堂が"ストレス臭"」日経クロステック
  4. ※4 「ウェアラブルやデータ活用による疾病・介護予防や次世代ヘルスケア」経済産業省 p22

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