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快適なオフィスの実現

テレワークには魅力が無い? 離職する若者の意外な本音からコミュニケーションを考えよう

テレワークの導入については、通勤時間が減ったり家族との時間が増えたりした、というポジティブな意見が聞かれます。

ただ、その意識は世代によって異なり、特に若い世代は離職の理由にもなっているケースがあるのです。

なぜ若手が離職してしまうのか。
いくつかの事例や分析をもとにみていきましょう。

テレワーク下での「はたらく幸せ」世代による違い

パーソル総合研究所が、テレワーク下での「はたらく幸せ」について行った意識調査があります。

この調査では「はたらく幸せ」について、下の7つの因子に分解しています。

1)自己成長因子(新たな学び)
2)リフレッシュ因子(ほっとひと息)
3)チームワーク因子(ともに歩む)
4)役割認識因子(自分ごと)
5)他者承認因子(見てもらえている)
6)他者貢献因子(誰かのため)
7)自己裁量因子(マイペース)

これを世代別に見ると、このような結果が得られているのです(図1)。

図1 テレワーク下での世代別「はたらく幸せ因子」

以下を参考に図を作成しています。
出所)「はたらく人の幸せに関する調査【続報版】」パーソル総合研究所×慶應義塾大学 前野隆司研究室

30代以降では総じて、テレワークによって「はたらく幸せ」の実感が良好になっているのに対し、20代では極端に低いうえ、中には悪化している因子もあります。

具体的には、「チームワーク因子(ともに歩む)」と「他者貢献因子(誰かのため)」のふたつです。

「自分は通用するのか」「ゆるい」という危機感

このような事例があります。新入社員のSさんのケースです※1

テレワークによって、
「オフィスなら気軽に聞けるような仕事に対する相談が難しく、そのまま聞けないで時間が過ぎてしまう」
「自分は社会人として通用する存在になっているのか」
という悩みを抱えてしまいました。
その結果、次のような行動に出ています。

勤務時間中に転職エージェントにエントリー。面談も予約して、キャリアアドバイザーに相談。早々に転職を決めました。彼女が入社してからオフィスに行ったのは3回だけ。当然のように送別会もありませんでしたが、次の職場で頑張るモードに切り替わっているようでした。

引用:「入社早々転職?『リモートネイティブ世代』の本音」東洋経済オンライン

そしてもうひとつは、入社3年目の男性のこのような悩みです。

2020年4月の入社直後からコロナ禍でリモートワークとなった。上司はパソコンの画面越しに「いいよ、大丈夫だよ」というだけで厳しい指導を受けたことがない。「このままでは自分はダメになる」。男性は転職を心に決めた。

引用:「リモート勤務で叱られぬ日々、『ゆるい職場』去る若手社員...[コロナ警告]きしむ社会」読売新聞オンライン

上司がよかれと思った若手への接し方が、裏目に出ているケースもあるのです。

若手のベースにある価値観

さて、なぜこのような現象が起きるのでしょうか。
ここで現代の若手がベースに持っている、働くことへの価値観を見てみましょう。

ひとつは、リクルートワークス研究所が2022年の3月に大手企業の2019年~2021年入社の社員について調査したものです。

キャリアに対する不安として、このような項目が挙げられているのです(図2)。

図2 若手社員のキャリアに対する不安感

以下を参考に図を作成しています。
出所)「大手企業における若手育成状況調査報告書」リクルートワークス研究所 p29

特にテレワークは、このような意識を増大させる環境にあることが先ほどの事例からもわかります。

また、職場が「ぬるい」と感じている先ほどの男性の場合は、「リアリティ・ショック」も相まっていると考えられます。

「リアリティ・ショック」とは、新入社員が入社前に描いていたイメージと入社後の現実の間に大きなギャップを感じてしまう現象です。

さまざまな種類がありますが、「思っていたよりぬるかった」ことにギャップを感じる若手社員もいます。

甲南大学の尾形実哉教授が行ったヒアリングでは、このような声もありました。

最初から責任ある仕事を任せて欲しいし、鍛えて、鍛えて、鍛えて欲しいって思ってたんですけど...。今の事務の仕事は、もうちょっと厳しい世界だっていう、事前に僕が盛り上げた印象があるんですよ。そのイメージと、合致しないんですよ、現実が。
(中略)
今、全然しんどくない...。ぬるいですね、すごいショックですよ。

引用:尾形真実哉「新人の組織適応課題-リアリティ・ショックの多様性と対処行動に関する定性的分析-」 p17

「承認要求」がベースにあるとも考えられます。

サイボウズ式のテレワーク

テレワークに欠かせないチャットツールをうまく使い、「本音を話しやすい場所」を作っている事例としてサイボウズの取り組みがあります。

サイボウズでは「分報」と呼んでいる、チャットで行う雑談の手法があります。これは日報の「分」版、つまりは分刻みの報告のことです。報告といっても、分報のスペースは必ずしも業務上の用件を伝える場ではなく、取り止めもない会話を気楽に交わすための場です。

オフィスでは、隣の席の人と「疲れたね」等、何気ない会話を交わすこともあると思います。テレワークでは、一緒に働くチームメンバーが離れた場所にいるため、このような会話をすることが難しくなります。

分報のやり取りは、職場での日常会話をオンラインで行う感覚です。あるいは、上司、部下も関係なくざっくばらんに語り合う、いわゆる「タバコ部屋」の雑談に近いかもしれません。

引用:「サイボウズ流 テレワークの教科書」サイボウズチームワーク総研 p157

一般的なテレワークでは、やりとりの相手が直属の上司や人事担当に絞られがちです。

しかしサイボウズの場合は、誰でもチャットルームを開くことができる形を取っています。気の合う仲間だけで愚痴を言い合うスペースを作ることもできるのです。

チャット上であっても、思っていることや不安、不満を「ぶつけあう」場所はどんな組織にも必要なのではないでしょうか。
しかし、テレワークでは逆にそのような場所が確保できない可能性は高いといえます。

一方でサイボウズの「分単位のチャットルーム」は、ツイッターのような場所ですが、より現実味があります。
ツイッターでは自分の呟きを不特定多数に放つだけで、リアクションも期待通りにはならないことが多いでしょう。
しかしこちらは匿名ではなく、自分が信頼できる相手を選んで「ぼやき」を口に出せるというわけです。

ビジネス特化型チャットツールで「まるで社内にいるリアル感」

手軽で便利なチャットツールですが、社員のプライベートアカウントで利用している場合、「休みの日にも通知が入る」「業務における社内のコミュニケーションが見えず、問題を解決できない」といった課題が生じている企業もあります。不動産の賃貸・管理を主業務とするシティ・ハウジング株式会社では、公私混同をさけるため、ビジネス特化型のチャットツール「elgana」を導入しました。「elgana」はNTTグループ公式のビジネスチャットでプライベートとビジネスのコミュニケーションツールを分離できるだけでなく、パート社員を含めた社内コミュニケーションの促進が可能で、組織の強化にもつながります。情報共有を目的とした使い方も多く外出していても社内の事務スタッフとリアルタイムに物件の写真やスケジュールが共有できます。

チャットツールの導入前の課題から導入後の効果まで、詳しい導入事例の詳細は以下の記事をご覧ください。
「まるで社内にいる」リアルなコミュニケーションで業務も効率化

シティ・ハウジング株式会社
https://elgana.jp/case/realestate/city-housing.html

まとめ

先に紹介した2人の若手社員は、一人で考え込んだ結果の離職ともいえます。
その状況を少しでも変えるには、毎日接するツールをよりリアル空間に近づけるといった努力も必要になるでしょう。

ベースにある若手の価値観を理解し、従業員に成功体験を与える「ES=エンプロイーサクセス」を最優先することが必要な時期に差し掛かっています。
特に、企業への所属意識が薄れてしまっている若手に対しては、「承認要求」をそっと満たすことが重要になりそうです。


参考資料一覧(ページ数は、参考文献内の表記に準じています)

  1. ※1 「入社早々転職?『リモートネイティブ世代』の本音」東洋経済オンライン

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