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自社のBCPだけでは不十分!サプライチェーンまで見据えた取り組みとは?

災害等の不測の事態に備えるBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)。製品やサービスを安定的に供給するためには、自社だけでなくサプライチェーン全体のBCM(事業継続マネジメント)を強化することが不可欠です。
サプライチェーンのBCM向上を継続的に支援する企業の取り組みやサービスも交えながら、サプライチェーンを見据えたBCPについて考えます。
BCPの重要性
BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃等の緊急事態に遭遇したとき、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、重要な事業を継続させ、あるいは中断してしまった事業を早期に復旧させるために、そのための手段をあらかじめ取り決めておく計画のことです。※1
企業が大地震等の緊急事態に遭遇すると、操業率が低下し、備えのない企業は事業の復旧が大きく遅れて、事業縮小や廃業に追い込まれるおそれもあります。
一方、BCPを導入していれば、緊急時でも重要な事業は維持でき、早期復旧も可能になります。
以下はBCP導入の効果を示したイメージ図です。(図1)
図1 BCPの効果
以下を参考に図を作成しています。
出所)中小企業庁「中小企業BCP策定運用資金>1.1 BCP(事業継続計画)とは」
複雑化・グローバル化するサプライチェーンとBCP
次に、サプライチェーンまで見据えたBCP対策がなぜ必要なのかみていきましょう。
2011年の東日本大震災や同年のタイの洪水、2013年に発生したフィリピンの台風によって、地震や洪水、台風の被害に直接遭っていない自動車工場等の生産に甚大な影響が及びました。※2, ※3
それをきっかけに、自社のBCP対策が万全でも、サプライチェーンを構成する他社の中に備えが万全でない会社があると、結果的に事業継続が難しくなるというリスクが改めて認識されました。
その背景には、現在のサプライチェーンは海外拡大が進み、複雑化している状況があります。
KPMGビジネスアドバイザリー株式会社のシニアマネジャーである中澤可武氏は、グローバル企業の製造業を例にとって、次のような説明をしています。※3
日本国内には統括機能、販売機能、製造機能をもつグループ本社があり、一方、海外にはアメリカ、ヨーロッパ、アジアにわたる広い地域を統括する会社があります。
また、それぞれの地域内には、製造子会社や販売子会社等があります(図2)。
図2 グローバルなBCPの対象
以下を参考に図を作成しています。
出所)KPMGビジネスアドバイザリー株式会社「KPMG Insight グローバルBCPの展開について >グローバルBCP策定の要点(同社 シニアマネジャー 中澤可武)」p.2
現在はさらに、それらの会社それぞれがサプライチェーンと複雑につながっています。
こうした状況から、BCPを策定する際には、グループの子会社やそれぞれのサプライチェーンまで踏まえる必要があるのです。
サプライチェーンを見据えたBCP
ここでは、2007年度からサプライチェーン全体のBCM(事業継続マネジメント)能力向上を継続的に支援している富士通グループの取り組みをみていきます。
サプライチェーン全体のBCM強化に対する支援
富士通グループは、「大規模災害等、不測の事態においても製品・サービスを安定的に供給するためには、サプライチェーン全体のBCM(事業継続マネジメント)強化が不可欠である」と考えています。※4
そこで、2007年5月、サプライチェーン全体のBCM強化のための共同プロジェクトを立上げ、取引先企業のBCM策定を支援しています。※5
そのために、取引先に対してBCMの取り組みに関する調査を毎年実施し、回収した回答を分析して、取引先にフィードバックしています。※4
この調査には、JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)の資材委員会が標準化したフォームを、2014年度から活用しています。
JEITA標準版 サプライチェーン事業継続調査表 抜粋版 ※6
たとえば2021年7月から10月に実施したアンケート調査の対象は、プロダクト関連で約790社、約1,630拠点に上り、同年11月にフィードバックを行いました。
アンケートで得られた情報は、単純に計算するのではなく、取引先に対する最適なBCM強化対策を検討するため、会社全体の取り組み姿勢をマネジメント面で評価します。※5
そして、部品・部材の製造拠点単位での復旧能力を分析し、総合的な対応状況を可視化しています。
調達部品・部材は、1社から複数種類を調達しているケースが多いため、会社としての取り組みだけでなく、個々の部品・部材の復旧能力も評価し、それらを組み合わせた分析結果を評価することが重要だからです。
このような評価を踏まえて、富士通グループ自らのサプライチェーンに潜むリスクを可視化するとともに、取引先への指導や、自らの調達戦略の見直しを実施しているのです。
発注者としての責任
富士通のBCM事業部長、伊藤毅氏はサプライチェーンのBCPは発注者側の問題であると述べています。※5
2007年に、富士通が重要な取引先約300社に対して行った事業継続能力の評価によると、BCPを策定していた取引先は国全体の平均値よりも多かったものの、300社のうち30%程度に過ぎませんでした。その後、サプライチェーン全体の強化に力を入れていたところ、2009年の段階では50%弱にまで向上しました。
しかし、取引先に要求するだけでは、発注側のメーカーが本来抱えているリスクを取引先の企業に転嫁することになってしまうと伊藤氏はいいます。
サプライヤーは、取引企業から「外圧」をかけられればBCPを策定せざるをえない立場です。しかし、発注者が取引先企業に圧力をかけ、形ばかりのBCPを作ることに終わってはならないと伊藤氏は警鐘を鳴らします。(古俣,2023)
富士通は、取引先が進歩するために何ができるかを踏み込んで考え、必要があれば、セミナーやBCP構築の講座を富士通の費用で行っています。
また、評価結果は、必ず課題を含めて取引先企業にフィードバックしているといいます。
評価の枠組みは、物理的な対策と、経営の中でマネジメントシステムとして機能しているかどうかを組み合わせ、以下のように、ハード・ソフトの両面を見るようにしています。
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(古俣,2023)
サプライチェーンBCPのためのサービス
富士通は、自社の知見やノウハウを活かし、顧客に対しても、サプライチェーンのBCPに関するサービスを提供しています。
そのサービス内容から、どのような対策がどのような効果をもたらすかみていきましょう。
平時と有事のサービス
まず、平時には、取引先の事業継続能力の評価を行い、ボトルネックとなる可能性のある取引先を確認し、サプライチェーンのリスクを可視化します(図3)。
図3 平時の提供サービス
以下を参考に図を作成しています。
出所)富士通株式会社「サプライチェーンリスク管理サービス SCRKeeper サービス内容」
また、有事の際には、被災した取引先を迅速に把握します。被災状況を管理することによって、部品ごとの影響を可視化し、生産復旧、代替調達に活かします(図4)。
図4 有事の提供サービス
以下を参考に図を作成しています。
出所)富士通株式会社「サプライチェーンリスク管理サービス SCRKeeper サービス内容」
提供機能
提供機能には、以下のようなものがあります。※7
「ツリー分析」は、品目ごとの商流を確認するための機能です。また、ツリー上の拠点がリスクレベルに合わせて色分け表示されるため、1社発注・1拠点生産ごとのリスクの可視化や、リスク対策状況を確認することができます。※8
「ハザードマップによる拠点のリスク分析」は、取引先の生産拠点や事務所等の住所と最新のハザードマップを組み合わせることで、災害発生時の被害想定を可視化するものです。
そのことによって、取引先の拠点のリスクを事前に把握し、取引先に災害対策を促すことができ、さらに地域リスクを加味した代替調達先の選定に役立てることもできます。※7
実際に災害が発生した際には、「有事における被災情報管理」によって、気象庁発表のデータが迅速に反映され、被災した可能性のある取引先をマップ上で確認することができます。
また、その一覧を閲覧・ダウンロードすることも可能です。※8
PC・社内システムを一括集約することで有事に備える
NTTビジネスソリューションズでは、ICTを活用したBCPに関するサービスを提供しています。AQStage仮想デスクトップは、デスクトップ環境を仮想化し、サーバー上に集約して利用するサービスです。従業員は各端末からネットワークを通じてサーバーに接続し、デスクトップ画面を呼び出して操作します。新型コロナウィルス感染症の拡大にともない、急速に広がったテレワークへの対応のほか、いつでも、どこでもマルチデバイスでデスクトップ環境を利用可能なため、有事の際の事業継続にも役立ちます。
たとえば、従業員規模5,000~10,000人規模の製造業の場合、各拠点にPCや社内システムを配置していると、震災等で罹災した拠点のみならず、他拠点も事業継続が困難になる場合があります。交通手段の不通で出社不可、使用端末の破損による端末内データの損失、拠点間閉域網の帯域圧迫による社内システムの遅延等が考えられます。
有事の際、リモートアクセス可能なデータセンターに社内システムを配置しておけば、どこからでもアクセスが可能になり、また物理的環境の破損リスクも低減できます。(図5)。
図5 AQStage仮想デスクトップ 事例04
以下を参考に図を作成しています。
出所)AQStage仮想デスクトップ 活用シーン
おわりに
企業は災害や緊急事態に対処するためのBCPを策定することによって、リスクを管理し、事業継続を確保し、ステークホルダーからの信頼性を高めることができます。
ただし、過去の経験からも、現在のようにサプライチェーンが高度化・複雑化している時代には、自社のBCPだけでは不十分だということが明らかになっています。
不測の事態に備えるためには、サプライチェーンの取引先との信頼関係を基盤に、サプライチェーン全体を見据えたBCPを構築することが不可欠です。
参考資料一覧(ページ数は、参考文献内の表記に準じています)
- ※1 中小企業庁「中小企業BCP策定運用資金>1.1 BCP(事業継続計画)とは」
- ※2 経産省「事業継続能力(BCP/BCM)」
- ※3 KPMGビジネスアドバイザリー株式会社「KPMG Insight グローバルBCPの展開について >グローバルBCP策定の要点(同社 シニアマネジャー 中澤可武)」p.1, p.2, p.3
- ※4 富士通株式会社「サプライチェーン>サプライチェーンBCMの強化」
- ※5 B-plus「企業が取り組む「BCP(事業継続計画)」とはシリーズ第4回 サプライチェーンにおけるBCPの課題と提言」
https://www.business-plus.net/business/columnist/shingokomata/series/134504.shtml?page=2
https://www.business-plus.net/business/columnist/shingokomata/series/134504.shtml?page=3 - ※6 一般社団法人電子情報技術産業協会「JEITA標準版 サプライチェーン事業継続調査表 抜粋版」
- ※7 富士通株式会社「サプライチェーンリスク管理サービス SCRKeeper サービス内容」
- ※8 富士通株式会社「サプライチェーンリスク管理サービス SCRKeeper」p.2
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