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地域通貨の課題を解消する“真のデジタル化”

デジタル地域通貨の活用ポイントとは?仕組みやメリットを解説

デジタル地域通貨の活用ポイントとは?仕組みやメリットを解説

特定の地域やコミュニティーの中で流通し、参加するお店や企業等で使える「地域通貨」。緊急経済対策として1999年に配布された、地域振興券をきっかけに注目が集まりました。

その後、発行数は増加し続けるものの、2005年をピークとして活動停止に追い込まれる地域通貨が数多く見られました。法定通貨ではないため強制通用力がなく、活発に流通させるのが難しいことや、紙で発行されていたがゆえの管理・運用コストから、導入の効果をなかなか見いだしにくい等の事情を抱えていました。

そこで近年、そうした地域通貨の課題を解消し、地域活性化への活路として期待されているのが、デジタル化により電子決済可能となった「デジタル地域通貨」です。

この記事では、地域通貨の仕組みやメリット、課題、そしてデジタル地域通貨の活用方法について解説します。

地域通貨とは

1. 地域通貨とは

地域通貨とは、限定された地域やコミュニティー内で流通する決済の手段です。地域通貨の配布形態はさまざまです。紙幣の形で配布されるものもあれば、ポイントとして付与されるもの、電子マネーとして使えるもの等、進化し続けています。

では、地域通貨はどのような理由から発行されるのでしょうか?主な目的は次の3つです。

  • 地域経済の活性化
  • ボランティアやエコ活動の推進によるコミュニティーの活発化
  • 知られざる地域の価値を発見・発信し、経済活動へ組み込むこと

地域の"通貨"という名称が付いていることから、地域経済の活性化を目的として発行されることが一般的です。特定の地域に限って飲食や買い物に使えるようにすることで、域内の経済活性化が期待できます。別の側面では、ボランティアやご近所でのお手伝い、エコな取り組み等を行うともらえる地域通貨もあります。その場合、地域通貨は、地域コミュニティーや相互扶助を活性化する役割を果たすことになります。

また、お米や野菜といった地域の特産品と交換できる地域通貨もあります。その目的は、地域の知られざる価値を発掘し、域内に循環させることにあります。また域外流入を促進させる施策の一つとしても活用されます。

日本では、1990年代後半から農村部のまちおこしが本格化していく中で、地域経済の活性化や地域外からの資金の呼び込みが期待できると地域通貨ブームにつながりました。しかしながら、管理・運用コストがかさみ「持続的な取り組み」にするのが難しい点が浮き彫りとなり、2005年以降は減少へ転じます※1

2019年12月時点での延べ立ち上げ数は約650で、同時期に稼働していたのは約190といわれています※2。地域通貨の成功には、持続可能な仕組みづくりが不可欠です。

  1. ※1 出典:川端一摩「地域通貨の現状とこれから」(調査と情報―ISSUE BRIEF― 国立国会図書館)
  2. ※2 出典:泉留維「日本における地域通貨の現状と課題-近年の新潮流を踏まえて」(季刊個人金融 ゆうちょ財団)

法定通貨との違い

法定通貨と地域通貨との違いについても解説します。

  • 法定通貨:国や中央銀行によって独占的に発行され、法律に基づく強制通用力を持つ
  • 地域通貨:信用組合やNPO法人等が独自に発行し、法的な通用力がないため信用の裏付けが別途必要になる

地域通貨は自治体や企業、NPO等が独自に発行し、その価値を保証しています。名称に「通貨」が付いていますが、強制通用力はありません。地域独自の決済手段であり、市場では成り立ちにくい価値を地域経済へ流通させるための社会的なシステムとして機能します。

地域通貨の仕組み

地域通貨の仕組みの説明図。詳細は以下の通り。

地域通貨の仕組みは、各地方自治体等が運営母体となり、さまざまな形態によって地域の価値を域内に循環させるシステムにより成り立っています。

使用期限のある紙幣のほか、商品券に上乗せされるプレミアム商品券、ボランティアやエコ活動を行うともらえるポイント還元等、多様な形態が選ばれています。

付与された地域通貨は、提携先の店舗等で使用されるほか、観光等の機会にも消費され、地域内で循環していきます。その結果、地域経済やコミュニティーの活性化、相互扶助の促進、健康増進、ウェルビーイングの向上等に役立ちます。

これまでの地域通貨は国費が財源となることが多く、経済対策や地方創生にかかわる交付金・補助金、ふるさと納税等の形で自治体に交付されるのが一般的でした。

近年では、行政の補助金のみに頼らず、地域銀行や信用組合等の金融機関をはじめ、さまざまな運営母体が参画し、収益サイクルを確立した地域通貨の例もあります。あるいは、地域通貨へ還元できる地域ボランティア等の市民参画によって行政コストを削減し、 コスト削減分を運営費用とすることで、持続可能な地域通貨の仕組みをめざせます。

地域通貨のメリット

3. 地域通貨のメリット

地方自治体やまちづくりにおいて地域通貨を導入する3つのメリットについて解説します。

地域通貨の3つのメリット
  • 地域経済活性化
  • 地域のウェルビーイング・サステナビリティ推進
  • 観光・地域外流入活性

地域経済活性化

地域通貨は特定の地域内や店舗に限定して使える通貨のため、域内での消費が促進され、地域経済活性化につながります。

経済対策の一環として国から国民へ交付金を配るだけでは、地域内で循環するとは限りません。ネットショッピングが発達しているため、買い物で消費されるお金が地域の外に出ていきやすいためです。しかしながら地域通貨の形をとることで、域内での消費が促されて地域の事業者へ国費が行きわたり、地域経済活性化の効果が高まります。

地域のウェルビーイング・サステナビリティ推進

地域通貨は地域のウェルビーイングや地域のサステナビリティ(持続性)の推進にもつながります。

たとえば、電車等の公共交通機関の利用に際して脱炭素ポイントを付与したり、アルミ缶や段ボールの納入時にポイントを付与したりすることで、サステナビリティの向上が期待できます。検診の受診時や歩数にあわせてポイントを付与することで、地域のヘルスケア増進にもつながります。

地域のデジタル化を促進する使い方としては、「自治体マイナポイント事業」も好例です。自治体マイナポイント事業は、マイナンバーカードの交付申請や、自治体が提供する施策への申請・申込みに際してポイントを付与する事業です。

子育て支援や健康増進等、さまざまな申請・申込みがマイナンバーから可能になりつつあります。マイナンバーを使用した申請・申込み時にキャッシュレス決済サービスのポイントを付与することで、住民への周知・行動が促され、デジタル化が進みます。

観光・地域外流入活性

その地域でしか買えない商品、できない体験等を地域通貨で購入できるようにすることで、観光客の誘致につながります。地域通貨は流通量が限られるため、得られる価値の希少性をアピールすることも可能です。地域通貨でなければ購入できないご当地の土産もの等があることで、域外からの人口流入が見込めるようになります。

地域通貨の活用においての課題

地域の経済やコミュニティーを活性化するさまざまなメリットを持つ地域通貨ですが、従来は紙・コインの形態で発行されていたために運営上の課題もありました。

コスト

地域通貨には、さまざまなコストがかかります。導入のための設備投資はもちろん、発行や回収、事務局側の業務といった運用上のコストが必要になるためです。利用者を拡大するためのPRコストや、発行残高の管理、セキュリティー対策のための設備・機器等の維持費もかかります。地域通貨を持続するためには、コストの課題をクリアすることが第一のハードルだといえます。

持続可能性

財源の多くが国庫であることから、地域通貨の活用には持続可能性の課題がつきまといます。地域通貨は国からの交付金や補助金、ふるさと納税等が財源になっているケースが少なくありません。該当事業が終われば地域通貨の運営も終了してしまう可能性が高くなるので、持続可能性の検討が必要になります。

収益サイクルの確立

「事業」として収益サイクルを確立するのが難しい点も、地域通貨を活用するうえでの課題です。そもそも地域通貨の利用が促進されなければ、せっかくの国費が地域で循環しなくなってしまいます。利用用途が極端に限定されてしまう場合や、住民へのインセンティブが弱い場合等、地域通貨の利用が少なく撤退に追い込まれてしまう事業も多くあります。地域通貨の運用には、利用促進を踏まえた収益サイクルの設計が必要です。

地域通貨「EGG」から学ぶべきこと

利用が促進されなかったことで、打ち切りとなってしまった地域通貨があります。静岡県清水駅前銀座商店街の「EGG(エッグ)」の例には、地域通貨を上手に活用するために学ぶべきことが多くあります※3

同商店街では、2001年2月1日からコミュニティー活性化を目的に地域通貨のEGGを導入しました。EGGを使用できるサービスはパソコンによるPOPの作成から、ズボンの裾上げまで多種多様。ちょっとした雑用までEGGを使うことで、コミュニティーの活性化を図りましたが、思い描いていたほどうまくはいきませんでした。

理由の一つとして、店舗側の売上に直結しづらかった点が挙げられています。同商店街では買い物をするともらえる「EGGスタンプ」が先行して導入されていました。EGGスタンプは200枚集めると500円の商品券として使えます。一方、地域通貨のEGGは、商店街で使えるほかの商品券等との交換はできず限定的でした。直接店の集客につながるスタンプへ、参加店側のインセンティブが働き、地域通貨の利用が促進されなかったそうです。

また、あえて地域通貨を使わずとも、お手伝いや贈答でお互いに助け合う地域の文化が、そもそも同商店街の中に根付いていたことで、地域通貨を介した交流が進まなかった点も挙げられています。

「EGG」の例から、地域の目的達成や課題解消に合わせた仕組みの導入が、住民の本質的な行動変容を促し、地域通貨の持続可能性を高められると理解できます。

  1. ※3 出典:湖中真哉「地域通貨はなぜ使われないか-静岡県清水駅前銀座商店街の事例」(静岡県立大学国際関係学部 国際関係・比較文化研究)

デジタル地域通貨とは

5. デジタル地域通貨とは

地域通貨の課題点を解決する手法として「デジタル地域通貨」が注目を集めています。その名の通りインターネットを介して使用できるデジタル上の地域通貨のことで、従来の課題を解決し、より円滑で活発な利用を促せると期待されています。

デジタル地域通貨でできること

地域通貨がデジタル化されると、地域通貨のデメリットをカバーしながら、新たな価値の創出にもつなげられます。

たとえば、プラットフォーム上にデジタル地域通貨を集約することで、地域通貨をそのほかのポイントやキャッシュレス決済に換算して使うことができます。あるいは、アプリ上から行政サービスの申請や支払いにデジタル地域通貨を充てることも簡易になります。

地域通貨の利用履歴もデータで取得しやすくなります。参加店のマーケティングやPR等へ応用が可能になるほか、取得したデータはEBPM(証拠に基づく政策立案)への活用にも活かせます。

デジタル通貨のメリット

デジタル地域通貨のメリットは、「コスト削減」、「プラットフォーム化」、「マーケティング活用」の3点にわたります。

コスト削減

まず、デジタルで発行・運用・使用できるようになるので、発行や運用に関するコストが大幅に削減できます。複数のサービスに紐付くポイント・マネーをプラットフォーム上で一元管理できるようにもなります。

プラットフォーム化

さらに、デジタル化した地域通貨をプラットフォーム上に集約することで、持続可能な取り組みとして地域に根付かせることが可能です。地域通貨を複数のサービスで使えるポイント・マネーにすることで、利用のインセンティブが強化され地域通貨が循環されやすくなるためです。

マーケティング活用

デジタル化により、地域通貨の保有・使用状況がデータとして収集できるので、マーケティングへの活用も期待できます。地域のお知らせやイベント情報をアプリで伝えることで、従来よりも手軽に情報提供や販促活動を行えます。

まとめ

一時期は運用コストの高さ等から、減少傾向にあった地域通貨でしたが、近年では「デジタル地域通貨」の登場により、持続可能性の課題がクリアされつつあります。

地域通貨の導入においては、1度きりの施策で終わらせるのではなく、導入後も継続して使われる状態をめざすことがポイントです。地域の目的達成や課題解消につながる事業設計をすることが、参加者の本質的な行動変容を促すのです。

続く「デジタル地域通貨の自治体事例5選!知っておきたい活性化のヒント」の記事でも、各事例からデジタル化による地域通貨の活用のコツを掴んでいただけたらと思います。ぜひあわせてご覧ください。

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