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地域通貨の新発想、事例でみるビジネスモデル
デジタル地域通貨の自治体事例5選!知っておきたい活性化のヒント
地域の経済やコミュニティの活性化のため、近年自治体から注目を浴びている「デジタル地域通貨」。その名の通り、特定の地域の中で流通し参加店舗で使える、デジタル化された通貨です。
普及が進む背景には、過去の紙幣型からデジタル化による地域通貨のビジネスモデルの変革が関わっています。デジタル化されることで各種の電子マネーやポイントと連動できるほか、配布・使用状況がデータとして把握できるためマーケティングへ応用できるためです。
この記事では、デジタル地域通貨の5つの事例を紐解きながら、導入の際に必要な押さえておくべきポイントもあわせてご紹介します。
自治体での導入が進むデジタル地域通貨
近年、自治体におけるデジタル地域通貨の導入が進んでいます。デジタル地域通貨とは、特定の地域内に流通し参加店等で使える地域通貨がデジタル化されたものです。もともと地域通貨は、地域内にお金が循環する仕組みとして注目され、発行数を増やしてきました。
近年では地域通貨のデジタル化により、導入する自治体がさらに増えています。その背景には、次の3つの要因があります。
- 老若男女を問わないスマホの普及
- 地域通貨の導入・運用コストの低減
- デジタル田園都市国家構想による地方のデジタル化推進
1つめの要因は、スマホの高い普及率のおかげで、デジタル地域通貨を利用しやすい環境が整ってきたことです。スマホの世帯保有率は、今や88.6%にのぼるといわれます※。
幅広い年齢の人がスマホを使用するなかで、キャッシュレス決済も普及しています。デジタル化により地域通貨も電子マネー/ポイントとして使いやすくなったことが、デジタル地域通貨の導入が増えた大きな要因です。
2つめは、デジタル化により、地域通貨の導入・運用コストが低減されたことです。これまでは紙で発行されていた地域通貨が、オンライン上で配布・管理できるようになりました。これにより導入・運用のコストが大幅に削減されています。
3つめは、デジタル化の推進にあたり国からの支援が得られる点です。国は、デジタルの力で地方の個性を活かしながら社会課題の解決と魅力の向上を図る「デジタル田園都市国家構想」を掲げています。地方自治体のデジタル化を推進する中で、先導的な取り組みに付与される交付金もデジタル地域通貨の導入を下支えしています。
※出典:総務省「令和4年版 情報通信白書 総論」
デジタル地域通貨の事例5選
地域に欠かせない決済手段の1つとなったデジタル地域通貨の事例を5つ紹介します。地域通貨は、受け取った人に使ってもらい地域に流通しなければ、その効果を十分に受けられません。そのため、地域独自のポイントを連携する等して利便性を高めるのが活用のポイントです。ほかにも、地域通貨でなければ買えないご当地商品を用意する等して、使いたくなる仕組みを設計しましょう。
ひらつか☆スターライトポイント
「ひらつか☆スターライトポイント」は、神奈川県平塚市が展開しているデジタル地域通貨です。以下の3つが同一アプリ上で統合されています。
- プレミアム付き商品券:「ひらつか☆スターライトポイント(以下「ポイント」)」
- 行政ポイントを含む電子マネー類似機能:「ひらつか☆スターライトマネー(以下「マネー」)」
- ふるさと納税に対する還元:「ひらつか☆スターライトマーレ(以下「マーレ」)」
ポイントは市内在住の人が購入でき、2022年度の発行額は9億6000万円(プレミアム分1億6000万円を含む)にのぼります。マネーやマーレは市外の人でも購入・利用できるため、地域経済の活性化に寄与しています。
ひらつか☆スターライトポイントのポイントは、以下の3点です。
- 普及を促すWeb施策が効果的だった
- マネー使用額の3%分を還元する仕組みがある
- ふるさと納税の返礼品としても購入できる
ひらつか☆スターライトポイントは、普及施策が奏功し発行額を伸ばしました。ユーザー専用のサイトを立ち上げ、ポイントのチャージや使えるお店を検索しやすくしたり、動画配信サイトを通じて専用アプリの使い方を発信しています。
また、プレミアム商品券機能に加え、地域電子マネー機能・地域ポイント機能を備えた点も特徴的です。「マネー」は、対象期間中に加盟店で使用した額に対して、3%分を還元する仕組みにより発行額を伸ばしています。さらに、ふるさと納税の返礼品として、寄付金額の30%を還元する電子ポイント「マーレ」を用意しました。これにより、寄付額のほかにマーレの流通が期待でき、施策の効果をより高めています。
- ※2023年2月執筆時点の情報です。
- ※出典:平塚市「地域経済キャッシュレス化推進事業ひらつか☆スターライトポイント等(令和4年度)」
MORIOペイ/MORIO-Jポイント
「MORIOペイ/MORIO-Jポイント」は、岩手県盛岡市が運営するMORIO Payアプリを使ってチャージ・利用できるデジタル地域通貨です。地域通貨に加えて、独自ポイントの機能も備えていることで利便性を向上しています。MORIO Payアプリから加盟店でキャッシュレス決済を行うと、100円につき1ポイント(=1円)が貯まる特典もあり、利用者を増やしています。
MORIOペイ/MORIO-Jポイントのポイントは、以下の3点です。
- アプリ上にキャッシュレス機能とポイント機能を統合
- キャンペーン期間中はクレジットカードでもチャージを可能
- 地域通貨を活用した消費喚起事業を実施
MORIO Payアプリ上で、MORIOペイ/MORIO-Jポイントを使ったキャッシュレス決済を可能にしました。ポイント機能を備えることで、以前より運用してきた「MORIO‐Jカード」のポイントもMORIO Payアプリに移行できるほか、決済金額の1%分のポイントが貯まります。
キャンペーン期間中は、現金のみならずクレジットカードでもチャージを可能にしたことで、発行額を伸ばしました。総額1億円、チャージ金額の30%を還元するキャンペーンを大々的に展開し、盛岡市内約500カ所の加盟店に消費喚起効果をもたらしました。
- ※2023年2月執筆時点の情報です。
- ※出典:盛岡経済新聞「盛岡地域のQR決済「MORIOペイ」利用開始 時代に合わせた使いやすさ重視」、盛岡市「MORIO Pay決済還元キャンペーンについて」
いたばしPay
「いたばしPay」は、板橋区商店街振興組合連合会と板橋区商店街連合会によって運営されるデジタル地域通貨です。板橋区内の消費活動や経済循環を促進するほか、アプリを通じた情報発信等で地域住民と事業者間の「つながり」増進をめざしている点がユニークです。2022年10月に19.5億円分を発売したことで話題となりました。
いたばしPayのポイントは、次の3点です。
- キャンペーンを実施し、30%のプレミアムを乗せて販売を開始
- 販促キットの用意が簡単
- コンビニATMで誰でもチャージ(購入)が可能
開始当初の期間限定で、10,000円で13,000円分のいたばしPayを購入できるキャンペーンを実施し、普及が促進されました。
加盟時にキャンペーンポスターや決済時に使用するQRコードといった販促キットも配布することで、加盟店舗の導入ハードルを下げています。
また専用アプリを通じて、誰でもどこでもチャージできるインフラを整備しました。板橋区内の126カ所と全国約26,000カ所でチャージ(購入)が可能である点も、多くの購入・利用を促進しています。
- ※2023年2月執筆時点の情報です。
- ※出典:いたばしペイ「いたばしPay取扱説明会」、Impress Watch「いたばしPayがスタート。プレミアム付デジタル通貨」
さるぼぼコイン
「さるぼぼコイン」は、飛騨信用組合が2017年12月にスタートしたデジタル地域通貨です。発行から6年でユーザー数は24,000人に、うち73%以上が地元の住民です。使える地域は、岐阜県高山市・飛騨市・白川村に限定されています。発行開始時から無料でダウンロードできる専用アプリを提供することで、スマホを通じた利用を促進してきました。
地域内の約4割にあたる約1,900店舗が加盟している点も大きな特徴です。大手の電子決済会社がシェアを奪うのが難しいほど、さるぼぼコインは現地の生活に溶け込んでいます。内閣官房が実施した「夏のDigi田(デジデン)甲子園」でもその取り組みが評価され、デジタル地域通貨の成功例として表彰されています。
さるぼぼコインのポイントは、次の5点です。
- 会費払いや個人間送金等、ちょっとした決済がしやすい
- 行政との連携等により、さるぼぼコインをもられる機会が多い
- 飛騨信用組合の丁寧な支援によりキャッシュレス決済を促した
- さるぼぼコインでしか購入できない裏メニューを用意
- 地域のための仕組みとし、3~5年の中長期の取り組みとして捉えた
さるぼぼコインは、飛騨信用組合の預金口座との連携や、コンビニATMを使って簡単にチャージできます。使用時は、店舗のレジにある2次元コードを読み取り、お手軽に決済ができます。
そのうえ、地元のサッカークラブの会費払いやユーザー同士での送金もできる等、利便性が高いことも特徴です。行政との連携を進めることで、ふるさと納税機能や、移住者へのさるぼぼコイン進呈といった、ポイントをもらえる機会も増えています。
運営母体の飛騨信用組合の職員が、窓口でアプリの使い方やキャッシュレス決済の方法を説明してきたことも、シェアを高めた要因です。
また、Webサイトの「さるぼぼコインタウン」では、飛騨・高山のお店に行かないと買えない"ちょっと変わった"商品・サービスを紹介しています。さるぼぼコインでしか購入できない裏メニューがあることで、地域外の需要も掘り起こしました。
地域のための仕組みをめざし、中長期的な取り組みとしている点もポイントです。防災情報からクマの出没情報まで、プッシュ通知機能により地域住民や社会課題に直接アプローチする仕組みとして機能しています。
- ※2023年2月執筆時点の情報です。
- ※出典:飛騨信用組合「さるぼぼコイン」「さるぼぼコインタウン」、内閣官房デジタル田園都市国家構想「電子地域通貨「さるぼぼコイン」を活用した、行政サービスの向上及び地元企業の支援」
富士山Gコイン
「富士山Gコイン」は、2022年8月8日に本格稼働したデジタル地域通貨です。専用のアプリやカードから、御殿場市内の取扱加盟店で利用できます。チャージ額の1.5%が常時ポイント還元されるお得な地域通貨として話題を集めています。
富士山Gコインのポイントは以下の5点です。
- キャンペーンを実施し、30%のプレミアムを乗せて販売を開始した
- キャッシュレス決済で使いやすくした
- セブン銀行ATMでチャージが可能
- SDGsの取り組みで富士山Gコインが貯まる設計にした
- スマホが不慣れな人のためにカード型も配布
富士山Gコインは、御殿場市が発行しているデジタル地域通貨です。自治体向けデジタル地域通貨プラットフォームサービスを導入して、発行されました。プレミアム付き商品券だけでなく、マイナポイントやSDGs活動に対して付与されるポイント等が、プラットフォーム上で統合されています。
発行当初にプレミアム(30%)を上乗せし、普及を促しました。日ごろのチャージは、セブン銀行のATMから行えます。1ダラー=1円として加盟店での支払いができ、電子マネーとして気軽に使えるのも魅力です。
また、御殿場の豊かな未来につながる活動や健康づくり等、SDGsの達成につながる行動によってもコインが貯まります。スマホが不慣れな人のために、カードタイプでも配布している点も特徴的です。
- ※2023年2月執筆時点の情報です。
- ※出典:御殿場市「御殿場市デジタル地域通貨 富士山Gコイン」
デジタル地域通貨の導入時に押さえておくべきポイント
これまで紹介した自治体の事例をヒントしながら、デジタル地域通貨の成功に向けて、押さえておきたいポイントや具体的な利用促進の方法等を解説します。
加盟店も導入しやすい
地域通貨の利用を促進するには、加盟店も導入しやすい設計が欠かせません。使用できる店舗や施設を増やすことが、流通量の増加や利用の促進のために必要だからです。たとえばアプリのQRコード決済を活用し、加盟店側で専用端末の導入を不要にすれば、加盟店も参加しやすくなります。また、ポスターやチラシ、ステッカー等加盟店用の販促キットも運営側で用意し、提供できるとよいでしょう。
利用のためのインセンティブがある
デジタル地域通貨を利用するためのインセンティブ設計が重要です。たとえば、さるぼぼコインのように、地域通貨でしか買えない商品を設けるのも有効となります。また、利用者を獲得するための施策は、デジタル地域通貨の導入当初が重要です。30%還元等の思い切ったインセンティブを設け、一定割合の利用シェアを獲得する自治体も少なくありません。
利用がしやすい
地域の消費者、あるいは地域外の消費者が利用しやすいよう、機能面にも配慮が必要です。煩雑で使いづらい仕組みになっていると、デジタル地域通貨の利用が促進されず流通量が減ってしまうためです。たとえば、チャージできる場所を増やしたり、スマホが苦手な方向けにカード型でも利用できるようにしたり、利用者特性に合わせた機能設計を行う必要があります。
複数の利用用途がある
キャッシュレス決済だけでなく、さまざまな利用用途を用意しましょう。特徴的な利用用途を用意することで、地域コミュニティの活性化が期待できたり、話題を呼んだり、よりファンの心を掴む通貨となっていくためです。
たとえば、ボランティアや健康増進等の取り組みでポイントを貯められたり、友人知人に地域通貨を送ったりといった利用用途が人気です。また、デジタル地域通貨を管理するアプリは、地域住民とのコミュニケーション手段としても有効です。複数の用途を設けることで、地域住民の生活により深く寄り添えるデジタル地域通貨が育ちます。
短期で終わらせず中長期を前提に取り組む
デジタル地域通貨を軌道に乗せるためには、中長期的な視点で取り組みを行うことが重要です。デジタル地域通貨が安定的に運用できるようになるまでは、加盟店が増え利用者が増え、その仕組みが地域に定着するステップをたどらなければいけないためです。
そこで、補助金を財源の中心に据えた短期的な振興事業ではなく、中長期的な視点でPDCAを回しながら事業を運営していく必要があります。デジタル地域通貨と、行政ポイントや施策、電子マネー等を統合できる、地域マネープラットフォーム・アプリの導入も有効です。近年は、デジタル地域通貨の事業運営をサポートするサービスもあるので、活用を検討してみましょう。
まとめ
スマホの普及やデジタル化によるコストの削減にともない、自治体での導入が増えているデジタル地域通貨。プラットフォームやアプリ上で扱いやすくなったことで、各種のポイントや行政サービスとの連携も可能になっています。
デジタル地域通貨の成功に向けて、発売時のキャンペーン実施、専用プラットフォームや専用アプリの導入により各種ポイント/電子マネー/行政サービス等を連携すること、地域外の需要を呼び込む施策、複数の利用用途を設けること等が有効です。
中長期的な視点で運用に取り組みながら、地元に愛され生活に欠かせない通貨をめざしましょう。
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