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【セミナー実施レポート】介護休業"が"介護離職"の引き金に!?ワーキングケアラー支援を考えるフォーラムを開催

はじめに ― 介護と向き合う時代、企業に求められる"新しい常識"

日本では、介護を理由に年間約10万人が離職していると言われています。
介護は突然始まり、終わりが見えず、しかも深刻になってからようやく表面化するという傾向があります。
企業にとって、ワーキングケアラー(仕事をしながら家族介護を担う人)の支援は、もはや「福利厚生」の領域ではなく、人材戦略・事業継続性の観点から重要性が高まるテーマとなりました。
本フォーラムでは、
「介護離職はどうすれば防げるのか?」
「企業は何をすべきか?」
「管理職はどう向き合うべきか?」
について、有識者の講演、参加者同士のワークの中で、考える機会となればと、開催いたしました。
オープニングワーク「あなたは介護をどう捉えていますか?」
参加者のほとんどは介護未経験者でしたが、冒頭の問いかけにより、介護へのイメージが浮き彫りになりました。
出てきた声は、
- 仕事を休まないといけない
- 異動しないと続かない
- 自分の時間がなくなる
など、「キャリア喪失」を連想させる内容が目立ちました。
さらに「自分が子どもに介護をしてもらうとしたら、どんな介護を望みますか?」と問いかけると、多くの参加者がハッとした表情に。
「無理に仕事を辞めてほしくはない」「できるだけ自立したい」など、自分の価値観との差に気づかれました。
厚生労働省講演「企業における仕事と介護の両立支援に向けた取り組みについて」
登壇:厚生労働省 有瀧 悟史氏
有瀧氏からは、2025年4月からスタートした制度改正の背景や内容・今後企業に求められる役割・厚生労働省で作成した実務的な支援ツールについて、最新の情報とともに解説が行われました。

労働力人口減少の中で拡大する"介護と就業の両立"
2040年には、労働力人口が最大900万人減少する可能性があるという中、
- 就業しながら家族介護を行う人は増加し、約365万人に到達
- 年間約10.6万人が介護離職
- 介護離職のピークは40代後半〜60代(企業の中核層)
という状況が、明らかになりました。
「企業の根幹を支える層が、介護で離職している現状に、もっと危機感を持ってほしい」
と、家族の介護について職場内でオープンにしにくいことも多く、離職の実態が組織からは見えづらい現状を交えながら語りました。

2025年4月の制度改正 ― "直面してから慌てない"ために
今回新たに義務化された3つのポイントとして、
- 介護直面時の両立支援制度に関する個別周知・利用意向確認
- 40歳到達時の情報提供
- 研修や相談窓口設置などの雇用環境整備
が紹介されました。
特に2.は、「介護に直面し、申し出てきた時点ですでに遅れている」ケースが多いという介護の特性を踏まえて、制度化された点が重要なポイントです。
「ただし、制度改正に対応した社内制度を整えたとしても、実際に効果的に運用されなければ介護離職は防げません。家族の介護について"話しやすい・相談しやすい"職場になっているかが鍵になります」と語りました。
すぐ使える"実務ツール"の提供
厚生労働省は2025年に、労使の関係者や学識者と協働で、今回の制度改正に合わせてさまざまな支援ツールを公開しています。
〇企業による社員の仕事と介護の両立支援に向けた実務的な支援ツール https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001521425.pdf

有瀧氏は、
「制度を動かすのは"現場"。今回のツールはその"現場"で効果的に両立支援の取り組みを進めていただくための土台であり、厚生労働省としても企業の取り組みを伴走で支援していきたい」と語り、実務に寄り添う姿勢を示しました。
<参考>厚生労働省による各種中小企業支援策
〇両立支援等助成金
https://www.mhlw.go.jp/content/001472912.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/001580651.pdf
〇中小企業向けの専門家による相談支援事業
https://ikuji-kaigo.mhlw.go.jp/
柔軟な働き方は「介護だけの問題」ではない
病気治療、子の通院、障がいなど様々な事情を抱えながら働く人が増えている中、誰もが直面しうるライフイベント「介護」の両立支援はDE&Iの基盤づくりにつながるとまとめられました。
となりのかいご 川内氏講演「誰でもできる仕事と介護の両立 ― 離職を防ぐために」
登壇:となりのかいご 代表・川内 潤氏


続いて登壇したのは、企業向け介護支援を専門に行う NPO法人「となりのかいご」の川内氏。
豊富な現場経験から、「よかれと思った支援が離職を招いてしまう構造」を鋭く指摘しました。
介護は"構造的に追い込まれる"
川内氏が介護現場で見てきたのは、
- 24時間つきっきりで介護し
- 自分の生活やキャリアを犠牲にし
- それでも疲弊のあまり親に怒鳴ってしまう
という、当事者の苦しさでした。
「これは本人の頑張り不足ではない。そうせざるをえない"構造"が存在している」とし、早期の情報提供と外部支援につながる仕組みを企業とともに作ってきた理由を語りました。
"情報は受け取っているのに離職する人"の共通点
国の調査でも、
- ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談している
- 会社から制度案内を受けている
- 自ら介護情報を集めている
にもかかわらず離職してしまう人が多いことが判明しています。
共通しているのは、
「自分が直接やらなければ」という意識が強く、自分の生活を大事にできないこと。
逆に、外部サービスを活用し、周囲に頼れる人ほど両立できていると指摘しました。

企業が果たすべきは「マインドセット転換の機会づくり」
川内氏は、企業だからこそできる取り組みとして、早期の情報提供と価値観の転換の重要性を強調しました。その象徴的な事例として、Aさんのケースを紹介しました。
Aさんは、介護必須研修を受けた際に「早く相談すべき」「すべてを自分でやらなくてよい」という考え方を知りました。その後、母親が末期がんと診断されるという状況に直面します。Aさんは「母は私が社会で活躍することを喜ぶだろう」と考え、海外赴任を決断しました。
このエピソードを通じて川内氏は、「近くにいることだけが愛ではない」と語り、キャリアを中断してまで親につきっきりになることを本当に親が望むのか、自分自身の人生について考えることの重要性を伝えました。
介護はDE&Iを加速させるテーマ
介護は「誰でも当事者になりうるDE&Iテーマ」です。
介護をきっかけに
- 心理的安全性
- 対話文化
- 多様な働き方
を整えることが、組織全体のインクルージョンを高めると話し、講演を締めくくりました。
「karafuru AI(カラフルAI)」を活用したワークショップ
中盤では、参加者同士が交流しながら、生成AIツール「karafuru AI」を体験しました。
karafuru AIは、上司と部下1on1のシーンを題材に、AI相手に「自分ならこう答える」という回答を入力すると、その場でAIから回答に対してフィードバックを得られます。またあわせて専門家のアドバイスを確認することができ、そのシチュエーションにおいて気を付けるべきポイントと対応する際の具体的なアドバイスを得ることができます。
今回は「親が入院したので、介護休業を取得したい」というシチュエーションを題材に、グループで話し合いながら入力していただきました。


参加者からは、
- 「確かに、これは部下から急に相談されたら本当に戸惑ってしまう」
- 「休んでいいよ!といってしまいたくなるけど、それじゃ足りない...じゃあどう言おうか」
- 「両立を支援するというメッセージをどう伝えればいいんだろう」
など、お互いに悩みながらディスカッションする方が多く、介護支援における"言葉の大切さ" を実感するセッションとなりました。

パネルディスカッション「仕事と介護の両立を"当たり前"にするには?」
後半のパネルディスカッションでは、制度担当者と支援現場の双方の立場から、企業に求められる実践が深く議論されました。
まず「人事部は何をすべきか」というテーマでは、有瀧氏が"実態把握の重要性"を強調しました。「介護は従業員が申告しない限り見えにくく、気づいたときにはすでに深刻化していることが多い。社員の家族構成や介護への不安などを把握し、企業トップの経営層を含め社内全体で認識を共有することが、制度づくりに当たっては必要」と語りました。
川内氏も、企業調査で「今の人員の3割が数年で介護リスクを抱える可能性がある」という結果を示したところ、経営者の意識が大きく変わった経験を紹介し、「数字は経営を動かす」と述べました。


次に「介護を話しやすい職場づくり」について議論は進みました。
川内氏は、ある企業の社長が、自身の介護の"失敗談"を率直に語ったことで、役員層から相談が相次いだ事例を紹介し、「トップの自己開示は強いメッセージになる」と指摘しました。
一方、有瀧氏は、自身の職場の"朝メール文化"を紹介しました。家族の出来事など小さなプライベートを共有する習慣が根づくと、その延長線上で自然に介護の話題が出せるようになり、心理的ハードルが下がるというものです。
また、有瀧氏は「介護は必ずしもネガティブ一色ではないのでは」と自身の祖父母の介護経験を語り、しんどさの中にも"その人らしさが見える瞬間"があると述べました。川内氏も「介護は、自分の幸せや価値観を見つめ直す機会にもなる」とし、制度だけではなく"どう意味付けるか"が文化をつくるうえで重要だとまとめました。
最後に議論は、「利用者が急増し、市場がひっ迫している介護サービスに頼ってよいのか」という不安に向き合いました。
有瀧氏は、介護保険制度は「介護の社会化」を基本理念として創設されたことを説明。一方で現場は人材不足が深刻化している現実にも触れました。
川内氏は、「だからこそ早く相談してほしい」と強調します。限界まで家族が抱えた結果、家族自身が倒れて"緊急ショート"として現場が対応することが多く、早期相談であればもっと穏やかな支援が組み立てられると語りました。
さらに川内氏は、南三陸での高齢夫婦のエピソードを紹介。津波ですべてを失いながらも、「海に世話になって生きてきた。この土地を離れるわけにはいかない」と語った夫婦の姿を例に、
「安全・便利だけが幸せではない。本人がどう生きたいかを尊重することが介護支援の本質」
と締めくくりました。
参加者の声
アンケートからは、次のような感想が寄せられました。
- 「制度は手段であり、介護者のキャリアを如何に継続・充実させて行くかを目標とすべきという言葉が印象的でした」
- 「制度よりも風土が非常に大事でかつ難しいと、日頃からも感じていますが、あらためて実感しました」
- 「こういった介護をテーマとしたイベントはなかなかなく、ワークショップを通じて、ほかの参加者と意見交換ができてよかったです。」
おわりに ― 介護に直面しても働き続けられる社会へ
本フォーラムを通じて浮き彫りになったのは、介護離職の多くは"防げる離職"であるという確信でした。
必要なのは、"制度 × 意識 × 文化"の総合的なアプローチです。
NTTビジネスソリューションズは働くすべての人が介護に直面してもキャリアを諦めず、安心して働き続けられる社会づくりに引き続き貢献してまいります。
となりのかいご
https://www.tonarino-kaigo.org/
karafuru AI(カラフルAI)
https://www.nttbizsol.jp/service/karafuru-ai/
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